17年に直木賞と本屋大賞をダブル受賞した恩田陸氏のベストセラー小説「蜜蜂と遠雷」を実写化。境遇もタイプも異なる4人のピアニストが若手の登竜門「芳ケ江国際ピアノコンクール」に出場し、刺激し合い、成長していく姿を描く。

恩田氏は「浜松国際ピアノコンクール」を綿密に取材。演奏の描写があまりにも克明で膨大すぎて「映像化は不可能」と言われたが、新鋭の石川慶監督が挑んだ。 再起を期す元天才少女・栄伝(えいでん)亜夜を演じる松岡茉優の体全体で表現する演技には息をのんだ。優勝候補のマサル・カルロス・レヴィ・アナトール役の森崎ウィンの繊細な演技も光る。「生活者の音楽」を掲げ、年齢制限ギリギリで挑む高島明石演じる松坂桃李には共感を覚えた。天才少年、風間塵(じん)はオーディションで選ばれた鈴鹿央士。はつらつとした演奏はみずみずしい気持ちにさせてくれる。

4人の演奏は、第一線で活躍する人気ピアニストがそれぞれ担当。ピアノの音が、それぞれの内面や気質を表現する。クライマックスの数分間、深みのある音色が全身に染み渡り、コンクール会場にいるかのような感覚になった。

【松浦隆司】 (このコラムの更新は毎週日曜日です)