原作は、新選組副長の土方歳三を描いた司馬遼太郎による小説。司馬作品の中でも人気は高く、その分、映像化へのハードルが高い作品だという印象があった。原田眞人監督は、幕末の大きなうねりというスケール感に、登場人物1人1人のキャラクターを丁寧に描き、壮大さと繊細さを同居させた。

岡田准一による土方のさまざまな表情、姿に胸が躍った。乱暴者、不良少年という意味のバラガキのトシと言われた時代のやんちゃな顔、剣を構えた時に一変する目、立場や状況が複雑になるにつれて見せる苦悩の表情。同輩、後輩、思いを寄せる人、それぞれに見せる笑み。どの時も魅力的だった。

岡田がさまざまな武道に精通しているのは知られている話だが、天然理心流は実戦を想定した総合武術ということや、剣に生きた土方を演じる上での説得力、存在感は抜群だった。

個人的に、司馬作品の最初が「燃えよ剣」だった。この作品がきっかけで幕末を描いた短編や、時代を変えてさまざまな司馬作品に触れることができた。新型コロナウイルスの影響で公開は1年以上延期になったが、ようやくだ。【小林千穂】

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