百人一首競技かるたの世界を描いた「ちはやふる」シリーズを青春映画の金字塔にした小泉徳宏監督らの製作チームが再び結集し、「水墨画」の世界に挑んだ。原作は水墨画家で小説家の砥上裕將(とがみ・ひろまさ)氏の同名小説。正直、水墨画がこれほど奥深いとは思っていなかった。

横浜流星演じる悲しい過去を背負った大学生の霜介(そうすけ)がアルバイト先で水墨画の巨匠・篠田湖山(三浦友和)に声をかけられ、一から水墨画を学びながら白と黒だけで描かれる世界に魅了されていく。

水墨画に必要なのは、墨と筆と紙だけだが、墨の濃淡、筆の使い方次第でまったく違う作品になる。なによりも描かれるさまざまな線が、霜介や、ともに学ぶヒロイン千瑛(清原果耶)の時々の心情とリンクし、内面の変化とともに変わることに驚いた。なぜタイトルが「線は、僕を描く」なのか? その意味に納得した。

「できるかできないかじゃなく、やるかやらないかだよ」。真っ白な紙に1本の線を引く勇気はあるのか。映画は問いかけてくる。思い、悩み、1歩を踏み出せない人の背中を押してくれる。【松浦隆司】(このコラムの更新は毎週日曜日です)