政府は大阪など9都道府県に出している緊急事態宣言の延長を決めました。当初4月25日から5月11日までの期間で宣言が出た大阪など4都府県にとっては、再度の延長になります。休業要請対象の飲食店が多い大阪の繁華街・ミナミでは「このままではミナミがゴーストタウン化するかも…」と不安の声が広がっています。一方で温かな「エール」も届いています。

大阪・ミナミのフグ料理の老舗「づぼらや」が閉店し、名物看板「ちょうちんフグ」は撤去された(撮影・松浦隆司)
大阪・ミナミのフグ料理の老舗「づぼらや」が閉店し、名物看板「ちょうちんフグ」は撤去された(撮影・松浦隆司)

大阪・ミナミの道頓堀。ナニワの看板御三家と言われるのが巨大な看板「かに道楽の動くカニ」がゆっくりと足を動かし、名物人形「くいだおれ太郎」が「♪ドンドン・チンチン、ドン、チンチン」。きょうも元気に太鼓をたたいています。新型コロナウイルスの影響でフグ料理の老舗「づぼらや」は閉店し、御三家の看板の1つ「づぼらやのちょうちんフグ」はいなくなりました。長引くコロナ禍は大阪・ミナミの街の風景を一変させました。

地元の道頓堀商店会によると、82店舗のうち「づぼらや」など12店舗が閉店、15店舗が休業。同商店会の北辻稔事務局長(69)は「3度目の緊急事態宣言が発令後、さらに閉店、休業する店が増えている」と話します。

大阪での緊急事態宣言の再延長が決まり、一夜明けた29日夜も道頓堀周辺を歩く観光客はまばらで、シャッターが下りたままの店舗、テナントを募集する貼り紙が目立ちました。

「このままではミナミがゴーストタウン化するかも…。お酒の提供ができなくなってからは、開店している店のほうが少なくなってしまった」と北辻さん。前例のない“禁酒”の延長が深刻なダメージを与えています。

雑多でにぎやかな大阪らしさを象徴する道頓堀は、江戸時代に「角座」「中座」などが軒を連ね、「道頓堀五座」と呼ばれ、茶屋も集まって発展しました。上方文化の発信地となり、訪れた人は、芝居をみた帰りにおいしいものを食べる-。まさに女優杉咲花がヒロインを務めたNHKの連続テレビ小説「おちょやん」の世界でした。コロナ禍の前までは、国内外から観光客が多く訪れる「食い倒れの町」でした。

人通りが途切れた街に北辻さんは「戦争のとき、空襲で全滅したというのはあるけど、これほどお客さんが来ないのは、かつてなかったかも」とため息をつきます。

昨年、一般募集した献灯には「がんばれミナミ!」のメッセージがあった
昨年、一般募集した献灯には「がんばれミナミ!」のメッセージがあった

「負けるなミナミ!」「取り戻せ! 大阪」「必ず元気で再会しよう!」。

大阪・ミナミの道頓堀川の川沿いを、ちょうちんで彩る風物詩「道頓堀川万灯祭(まんとうさい)」を今夏も7月1日から8月31日まで開催します。昨年に続き、今年も地元だけでなく、一般公募でちょうちんに記す文字を募集しています。

ちょうちん1個につき協賛金は1万円。メッセージは10文字まで入れることができ、一昨年までは協賛金を出した企業が広告として社名などを入れていました。昨年、一般の人からも募集すると、大阪・ミナミの街を応援するメッセージが次々に集まりました。それぞれの街への思いがこもったメッセージ。今年も全国から「負けるなミナミ!」などのメッセージが集まっています。

「企業名や個人の名前を入れるのではなく、街へのエール『がんばれミナミ!』のメッセージには人の心の温かさがつまっています。もうこれは善意でしかない」と北辻さん。

万灯祭は地元商店街などでつくる「いっとこミナミ実行委員会」が主催しています。同実行委ホームページ(http://www.ittoko-minami.net/)で6月10日まで受け付けています。

道頓堀から「づぼらやのちょうちんフグ」はいなくなりましたが、今夏、にぎわいの回復を願う「エールのちょうちん」が点灯します。【松浦隆司】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミヘキタヘ」)

大阪・ミナミの道頓堀川の川沿いに点灯された万灯祭のちょうちん
大阪・ミナミの道頓堀川の川沿いに点灯された万灯祭のちょうちん