名曲やヒット曲の秘話を紹介する連載「歌っていいな」の第22回は、92年発表の稲垣潤一のヒット曲「クリスマスキャロルの頃には」です。サビで「クリスマスキャロルが流れる頃には…」のフレーズが何度も繰り返されますが、制作にあたって、そこにはさまざまな人の思いが交錯していました。
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「クリスマスキャロルの頃には」の歌詞を初めて手にした稲垣潤一の感想は「ちょっと詞がくどいんじゃないかな」だった。
作詞を手掛けた秋元康氏は、この言葉を聞くと「このくどさがいいんです」と言って、決して詞を変えなかった。稲垣はその強硬な申し出を受けて考えた末に納得した。
2人の考えの相違点は、この曲を最後まで歌うと、サビに出てくる「クリスマスキャロル」というフレーズが、8回も出てくることだった。稲垣は「まるで歌にサビしかなかったような気がした」と振り返る。秋元氏は「クリスマスの名曲には、リフレイン(繰り返し)のフレーズが必ずといっていいほどある。耳に残って記憶に残るからです。この曲も、クリスマスのスタンダードナンバーにしたかった」と詞を変えなかった理由を説明した。
同曲は、1992年(平4)10月に始まった唐沢寿明主演のTBS系連続ドラマ「ホームワーク」の主題歌に決まっていた。最終回の放送は12月24日のクリスマスイブ。エンディングを飾るクリスマスの名曲が、番組には必要だった。
テレビドラマの主題歌は、時間内に収まるよう曲の長さも制限される。当初、同曲には最後のサビの部分が転調して半音上がるバージョンと、転調なしの2タイプがあった。
同ドラマのプロデューサーだった遠藤環さんは「ドラマ放送内に収まるよう曲を途中でカットして半音上がった部分につなげると曲が変になる。ラストシーンでは全曲流したい」として、転調なしのバージョンを採用した。
ドラマは、唐沢、浦江アキコ、福山雅治と清水美砂(現在は清水美沙)が演じた男女2組のカップルがそれぞれ別離し、唐沢と清水、福山と浦江が演じた男女が最終的に交際を始めるという展開だった。ドラマの進行中、それぞれのカップルに紆余(うよ)曲折が続き、最終的に唐沢演じる主人公と福山演じる男性が、最終的にどちらの女性と付き合うことになるかという点が、視聴者の間で話題となっていた。
秋元氏は「ドラマの最終回には2組のカップルの人生の答えが出る」とドラマの内容に歌をリンクさせ、歌詞に「クリスマスキャロルが流れる頃には/君と僕の答えもきっと出ているだろう」と書いた。ドラマのクライマックスの収録は、その年の12月中旬、午前2時ごろ、東京・小山台の商店街で行われた。人工の雪を何トンも降らせ、深夜にもかかわらず、商店街全店が点灯するなどしてロケ収録に協力した。
2組のカップルが雪の降る街角で出会う。唐沢の「メリークリスマス」の呼び掛けに、浦江が笑顔で「メリークリスマス」と応じる。別れたカップルが、それぞれ新たな交際相手を見つけ、互いに認め合い、まさに「君と僕の答え」が出た瞬間だった。
ドラマに登場したシーンは約3分間。BGMに「クリスマスキャロルの頃には」がピタリとはまった。8回のリフレインと転調なしのメロディーが、視聴者の感動を増幅させた。それはまさに同曲が、秋元氏が願ったクリスマスに欠かせない1曲に定着した瞬間だった。【特別取材班】
※この記事は97年12月25日付の日刊スポーツに掲載されたものです。一部、加筆修正しました。連載「歌っていいな」は毎週日曜日に配信しています。





