フリーアナウンサー古舘伊知郎(64)が、8月5日に“ロックの聖地”の東京・新宿ロフトでトークライブ「戯言(ざれごと)」を開く。今年4月からは母校立大の客員教授に就任して、講座「現代社会における言葉の持つ意味」を来月16日まで担当している。トークライブと大学教授、その意味をマシンガントークで説明してもらった。

★「戯言」の第2弾

古舘が昨年12月にスタートさせたフリートークライブ「戯言」の第2弾。しゃべるステージを設けた意図を本人はこう説明する。

「まあ、しゃべるコラム。大体2時間くらい、しゃべりっ放し。面白いか、面白くないかは聞き手の問題で、自分がこだわるのは、どうしてそういう話をするのかという時代傾向とか、人はなぜそういう心理に陥るのだろうかという背景を探って枠組みを作ること。問いかけですよ、自分に対する。だから一体、自分は何が言いたいんだ、とね」

仮説を立てては分析を繰り返す。しゃべり続ける自分自身さえも検証の対象となる。解き放たれた言説は、古舘自身の新たなるエネルギーを生み出す。

「確かに(言葉にして)アウトプットしている方が元気ですね。インプットしっ放しで、しゃべる機会がないと腐ってきます。10インプットして20アウトプットすると、マイナス10じゃないですか。放電するというか、蓄電しなきゃいけないっていうのはあるんだろうけど、僕の場合はそうじゃない。10入れたら20出した方が循環が良いというか、気持ちが良い。脳内ホルモンも出てくるんです」

トークライブは東京・新宿歌舞伎町のど真ん中、ロックの殿堂である新宿ロフトで開催する。

「トークライブがあることで、情報への接し方が変わってくる。原稿を作ったり、台本を作ったりは一切しない。で、戯言だから、戯言を語るがごとくしゃべるんだけども、面白くなくちゃいけない。面白いだけじゃダメ。ただデレデレしゃべるパートと、ここはコラムってフレームをつけて、こんな時代だねって切り取って見せたい欲がある」

本来、音楽をやるところで、お酒を飲むお客さんを相手にする。

「日本では、ニューヨークのようにスタンドアップコメディアンがしゃべってるのを、音楽を聴くように酒を飲んでライブを楽しむという習慣はあまりない。音楽の殿堂でトークライブは初めてらしい。だから面白い。不安もあるけど、その分、興奮するし、興奮したいんだと思う」

いくつになっても、初体験の瞬間は刺激的だ。

「細胞が生まれ変わるようにフレッシュになります。同じことをやっていると、細胞が新しくなる感覚が全然ない。報道を12年やってる時もそうでした。毎日大きな事件があると、続報、続報じゃないですか。一昨日も、昨日も、今日もかって思ったら絶対ダメ。今日の新しい『Something new』なんですよ。続報だろうが、初めてのニュースであろうが、情報が更新されて出る。昨日と同じニュースは出さない。いつも新鮮でなきゃいけないと思い、言い聞かせています」

トークライブは過去に何十回となくやってきた。

「やっぱりライブをつくるのってお客さん。ノリが良ければ、こちらは際限なく盛り上がれる。お客さんが重たくて、何がいけないんだろうと思いながらしゃべってるとドジ踏んだりね。だから、主役であるお客さんの集合意識をなんとか切り開けば、あとは波に乗れる。サーフィンみたいなもんです」

★常識疑い裏側に

今年4月に母校・立大の客員教授に就任。週1回、火曜日の午後に設定された100分間の講義には300人近い学生が集まる。

「トークライブばかりやってきたんでこちらも新鮮です。教壇に立って、チョーク持って黒板に何かを書く。そういうことは初めてなんで、戸惑うし、面白いし、トークライブみたいにウケを取りに行っても滑るし。やっぱり学生さんが主役なんですよ。授業なんだから真面目に聞こうと思っている。ほぐそうと思ってウケを狙ったってポカンとされますよ」

講義のテーマは「言葉」「脳科学」「仏教」「情報化社会」と幅広い。古舘は、学生たちにこう訴える。

「これから社会に出て、常識を疑った方がいい。こういう風にこうなっているっていうものの裏側に回った方が、絶対面白いからと。最後はコミュニケーションだと思っている」

就活に追われる学生たちに、「人」で仕事を決めろと言う。

「人に憧れたんですね、仕事選ぶ時にね。ああいうしゃべり手になりたいとかね。ああいうはなし家さんに憧れる、ああいうアナウンサーが好きとか。やっぱり人間と人間で共感し合うんですよ。共感しあって、ああいう仕事に就きたいとか。でも今は、こういうジャンルがいいとか、危ないとかね。僕は、みの(もんた)さんとか、徳光(和夫)さんのスポーツ実況とか、そういう立教の先輩に限りなく憧れてました。やっぱりああいうしゃべり手になりたいというのが強くあった。これを押し付けてはいけないけど、職業ジャンルの何がおいしいかとか何が堅実かではなくて、自分がどういう人に憧れるかという目線を持って欲しいと思う」

残された授業で、学生たちに伝えたいのはコミュニケーションの大切さ。

「やっぱり、人と出会うことなんだと。学生同士もいいけど、人と出会って触発されて、その人を嫌いになったり、好きになったりしてね。ああいう人がやってる仕事がやってみたいとか、ああいう人の仕事っぷりを見たいとかね、やっぱり最後は人間関係じゃないかと。情報化社会で、川を泳いでるつもりが泳いでるんじゃなくて流されてる、流れに乗ってるつもりが流されてる可能性もある。ちょっとスマホを置いて街に出でよって。言葉に再注目せよ、みたいなことをもっともっと訴えかけたい」

★感想が教科書に

教壇に立つことで、後輩から教えられることは多い。毎回の講義後に学生から打ち返される自由感想は、古舘にとってかけがえのない教科書になっている。

「本当に教えたつもりが教えられる。先生ぶったって教職免許も持ってない。僕みたいな素人が教壇に立たせてもらうってことは、やっぱり素直でなきゃいけないと思うし、そこからみんなと勉強し合っているんです。ペラペラしゃべる割に、ここは説明不足だったとか、この子たちが悪いんじゃなくて、自分の説明が不足してたと、素直に謝ってすぐ謝罪して、俺、政治家より素直ですよ」

講義は、回を追うごとに熱気を帯びている。講義終了後に学生たちから質問を浴びる瞬間が心地いい。

「楽しいですね、若い人たちは。自分は勉強しないで、大学を卒業させてもらったんですね。“中退”だったんです。だから、いい年こいて呼び戻されて、学生に教わってるんです(笑い)。もう1回、卒業しないといけないんですよ」

プロレス、F1、ニュースキャスター、トークライブ…。時代を深呼吸しながら、思いは無限に語られる。視聴者、客席、学生は、古舘が語り掛ける先の鏡だ。全力でしゃべり続ける理由が、1時間35分のインタビューから伝わってきた。

(2019年6月30日付本紙掲載)

▼古舘伊知郎著「現代社会における言葉の持つ意味」(文化工房)

古舘伊知郎の講義の副読本。「古舘伊知郎とは何者か」「言葉はなぜ生まれたのか?」「情報が化ける時代にどう生きるか!?」「立教で仏教」などで構成。全34ページ。丸善キャンパスショップ立教大学池袋店(セントポールプラザ2階)で購入可。1000円(税別)。

◆古舘伊知郎トークライブ「戯言(ざれごと)」

18年12月に東京・下北沢でスタートさせたフリートークライブの新シリーズ。第2弾は“ロックの聖地”東京・新宿ロフトで、8月5日午後7時開演。

◆古舘伊知郎(ふるたち・いちろう)

1954年(昭29)12月7日、東京都生まれ。立大卒業後の77年にテレビ朝日入社。同8月からプロレス中継を担当。84年6月退社、フリーとなり「古舘プロジェクト」設立。85~90年フジテレビ系「夜のヒットスタジオDELUXE、SUPER」司会。89~94年フジテレビ系「F1グランプリ実況中継」。94~96年NHK「紅白歌合戦」司会。94~05年日本テレビ系「おしゃれカンケイ」司会。04~16年「報道ステーション」キャスター。現在、NHK「ネーミングバラエティー 日本人のおなまえっ!」(木曜午後7時57分)司会など。血液型AB。

連載「日曜日のヒーロー」 インタビューに答える古舘伊知郎=2019年6月14日
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