フリーアナウンサー群雄割拠の時代、特に存在感を発揮しているのが元テレビ朝日の宇賀なつみ(34)だ。19年3月に退社後、初の冠番組として始まった同局系「川柳居酒屋なつみ」(火曜深夜1時56分)は放送1年半を迎えた。しっとりとしたおかみ姿は視聴者をホッとさせるが、素顔は好奇心旺盛でバイタリティー満点。フリーランスとして、人生のかじを取る充実感に満ちている。

★サワー2杯

収録日の夜、すでに4本の仕事をこなした宇賀がおかみ姿でやってきた。「今日はたまたま忙しくて」と、笑顔に疲れは見えない。お酒を飲みながら大人がしっぽり語り合う、そんな番組が夢だったという。

「昨日も放送を見ていて。本当にこういう番組をやりたかったんだよなって、しみじみ思いました。バラエティーはテーマが決まっていたり、それに応えなきゃいけないしゃべりじゃないですか。普通に飲み屋でしているような会話を、カメラを忘れてしていただけるのが最高だなって」

「お酒好き」を公言し、酒豪の顔も知られつつある。この日はサワーを2杯ほど。

「いつもは3、4杯くらい飲んでる気がします。強いというか、好きなだけなんです。もちろんお仕事ではあるんですけど、趣味を仕事にしていただいたという形です(笑い)。将来は何らかの形でお店をやりたいという夢を持っていたので、仕事でかなえていただいたような感じです」

“常連客”の歌舞伎俳優尾上松也(35)とは、共演して半年たった。

「番組を純粋に楽しんでくださるし、人のことが好きなので興味を持っていろいろ質問してくださる。本当に助けていただいてるなといつも思ってます」

19年4月からフリーとなり、初のレギュラーが「川柳居酒屋-」だった。局アナ時代に比べ自己開示する場面が増えたことに、戸惑いもあったという。

「どこまで言ったらいいんだろうとか、ついこの間まで局アナだったのにフリーになったからといって急にベラベラしゃべり出すのも品がないんじゃないかとか考えつつ(笑い)。初代常連のムロ(ツヨシ)さんや松也さん、皆さんが引っぱってくれたことで私も少しずつしゃべれるようになってきた。今1年半を振り返ると、かなり頼りないおかみだったなと思います」

★本当の自由

テレ朝時代は「報道ステーション」「羽鳥慎一モーニングショー」など生放送の帯番組に継続して出演。恵まれた環境への感謝もあったが「でもやっぱり生活を変えたいという気持ちも大きくて」。10年の節目に退社した。

芸能事務所に所属せず、フリーランスとして働く生き方も注目を集めた。

「もっと有名になりたい、もっと稼ぎたいと思ったら事務所の力を借りた方がいいと思うんですけど、そういうことでもなかった。本当に自分の心の動くことだけ、やりたいことだけやった結果どうなるのか実験してみたかったところもあるんです」

フリー転身の一番の理由は「自由になりたかったから」という。

「会社員だと自分の意志だけで100%仕事を選べるわけじゃない。大きな会社を離れるのにまた大きな組織に入ってしまったら、自分の思いとは違うところで何かが動いてしまうかもしれない。辞めるなら完全に1人でやろうと思っていたんです」

4、5月は新型コロナの影響で思うように仕事ができず、反動のように5、6月はよく働いた。疲れを感じて8月を月の半分休むと、9月には働きたい気持ちがうずき出したという。

「その調節を全部自分でできるということが、本当の自由だと思っていて。これは自分に合ってますね。全然苦じゃないです。だって仕事も好きなことしかしていないし、誰にもやらされてない」

マネジメントから経理業務、ギャラ交渉まで1人でこなす。

「アナウンサーやテレビに出る仕事を一生やっていくことは無理だと思っているので。何をやっても生きていけるようにちゃんとしたビジネスメールが打てるようになりたいし、契約書も作れるようになりたい。中小企業の社長さんや芸能事務所の方にもかなりお話を聞きましたし、テレ朝時代の上司や先輩にもぶっちゃけあの人のギャラってどれくらいなんですか? とか。リサーチはかなりしてます」

苦労ではなく「それが楽しい」と話す。

「エレベーターで『今度一緒に仕事しませんか』と名刺をいただいたこともあります。でもその方が早くないですか? 直接つながった方が、味方が増えていく感じで楽しいんです」

★好奇心爆発

社長となって立ち上げた会社は、宇賀の好奇心に応えるためのものでもある。

「今は『宇賀なつみ』というものの会社でしかないですけど、将来いろんなことをやれるように、例えば飲食店とかアパレルとか、人を雇ったりできるように定款にも書いてます。これだけをやっていく会社とは思ってないんです」

「ざっくりですけど」と言いつつ、具体的なアイデアがポンポン出てくる。

「温泉宿とか買いたいですね。旅が好きなので、旅にまつわることを何かやりたいです。パーソナルトレーニングがはやっているじゃないですか。だから、パーソナル旅行代理店みたいなものをやってみたいと思ったこともあります」

共働きの両親を見て育ち、働くことにポジティブだった。

「両親からは『今度こんなことをやるんだ』という楽しい話しか聞いたことがなかった。大人になることが楽しみでしょうがなかったんです。仕事はずっとやりたいですし、やりたいからこそ1人になったという感じです」

休日は自宅にいても、映画鑑賞や読書に時間を使う。無意味にだらけることはあまりなく、「時間に対して貧乏性」と性格を語る。

「今日はゆっくりしようと思っても、午前中2、3時間くらいしたら、もういいやって」

プライベートでは17年5月に会社員男性と結婚。夫は家事一般何でもこなすが、料理だけは宇賀の担当という。そこにも合理的な一面が見える。

「無水調理鍋を買ってから、結構煮込み系をやります。和なら肉じゃがとか、洋ならトマトのチキン煮とか。放っておいておいしくなるやつです(笑い)」

学生時代はバトン部、吹奏楽部、応援団とジャンルフリーに挑戦。興味に素直な部分は変わらず、「いろんなことをやってみたいタイプ」という。今、どんな将来像を描いているのか。

「10年前に今の自分は想像できなかった。時代も私自身も変わるでしょうし、具体的な目標は持たないようにしてるんです。今やりたいことも、1年後には忘れてるかもしれない(笑い)。その時その時を楽しんでいられればいいかな。常に自分にとって新しくて楽しくて、誰かのためになることをやっていたいです」

いきいきと話す姿がまぶしい。このバイタリティーで、新しい肩書が加わる日は近いのかもしれない。【遠藤尚子】

▼常連客の尾上松也

おかみはとても姉御肌で、年齢は1つ下ですが頼りがいがあります。普段も考え方がしっかりしていてポジティブですし、お酒も強い! 私とは真逆です。そして話もとことん聞いてくれます。僕の面倒くさいところは、人見知りだというところ。おかみがどしっと構えていてくれるからこそ、安心してゲストの方々と楽しくトークできるのでいつも感謝です。お店のリニューアルオープンによって、またこれまでと違うゲストの皆様との楽しみ方があるのかもと期待してしまいます。店を閉めた後のアフターおかみや、時には出張おかみなんかも見てみたい! もちろん出張もついていきます! とゆーか、どこまでもついていきます! なつみ姉さん!

◆宇賀なつみ

1986年(昭61)6月20日、東京都生まれ。立大卒業後、09年テレビ朝日入社。入社当日から「報道ステーション」に気象担当として出演。「羽鳥慎一モーニングショー」など情報・バラエティー番組を中心に担当し、19年3月に退社。現在は同局系「池上彰のニュース そうだったのか!!」、フジテレビ系「土曜はナニする!?」などテレビ、ラジオにレギュラー多数。血液型AB。

◆「川柳居酒屋なつみ」

テレ朝退社後、宇賀の初レギュラーにして初冠番組。おかみの宇賀と常連客の尾上松也が、ゲストと酒を交わしながら本音トークするバラエティー。ゲストはテーマに沿ったお題で川柳を発表していく。10月30日からリニューアルし、地上波は毎月第4金曜(深夜0時50分)に放送、第1~3週はインターネットテレビ局「ABEMA」で配信する。

(2020年10月25日本紙掲載)