“けん玉演歌歌手”としてお茶の間に人気の三山ひろし(43)が、大みそかの「第74回NHK紅白歌合戦」(午後7時20分)に9回目の出場をする。「連続してけん玉をキャッチした人の最も長い列」のギネス世界記録に昨年まで6年連続で挑戦。今ではすっかり紅白の風物詩になった。今年の曲目や演出内容は発表前だが、紅白やけん玉にかける思いなどを語ってもらい、15周年の1年を振り返ってもらった。【松本久】

★やるなら127人超えへ

昨年の紅白の歌唱曲タイトルは「夢追い人 第6回けん玉世界記録への道」だった。今や紅白名物とも言えるギネス挑戦への「第7回」が今年もあるのか。「もしやるとしたら…」の前提で語ってもらった。

「せっかくやるのなら、昨年の127人というギネス記録を更新するのが1つの目標になるでしょうし、それは私とともに出てくれる『けん玉ヒーローズ』の皆さんもすごく楽しみにしているはずです」

そして、ギネス記録を持つ誇りと喜びを続けた。

「現在の記録保持者は私だけでなく127人全員。胸を張って『記録保持者です』と言える人がこんなにもいる。それが何よりもうれしい」

生放送ではけん玉が成功するかどうかに目が向いてしまい、歌に集中しづらい面もある。曲を聞いてもらうために、けん玉の卒業を考えてはどうか? そう水を向けると「全くないです」と即答だった。けん玉は芸能界単独最上位4段の腕前で、けん玉界でも一目置かれている。歌手としても演歌界をけん引する中心的な存在だ。だからこそ、けん玉と歌の両方にプライドと自負を持っている。

「紅白のステージは演歌歌手としてもけん玉でも、ここまで来ましたというところを両方見ていただけるよい機会。まさに『1回で2度おいしい』です。もし、けん玉が気になって歌が入ってこないという人にはオンデマンドがありますから(笑い)。何度も見て楽しんでください」

★3つの「あ」を

12年のファンイベントで始めたけん玉からは「3つの『あ』」を教わった。「慌てず、焦らず、諦めず」。これは歌の世界にも通じる道しるべだという。

「歌手の世界はデビューするのも簡単ではないのですが、続けるのはもっと大変。本当に慌ててもいけないし焦ってもいけない。もちろん諦めてはいけない。歌もけん玉も本当に似ていると思います。私が両方をやってくることができたのは、お互いに通じるところがあるのも理由の1つだと感じるんです」

文武両道ならぬ“歌とけん玉両道”。歌は15年、けん玉は12年。どちらもさらに上を目指している。

★3歳の原風景

小学生の時に両親が離婚。以来、祖父母と母、弟の5人暮らしで貧しい家計を母が女手ひとつで支えた。中1で新聞配達を始め、高卒後は地元のガソリンスタンドに就職。その頃、祖母の勧めで詩吟教室に通うと、多くの賞を受賞して師匠になることを勧められた。だが、心の中にあったのは演歌歌手になるという夢。そこには3歳で見た原風景があった。

「おばあちゃんが三橋美智也さんや春日八郎さんの大ファン。カセットから流れる歌を聞いて覚えて、みんなの前で歌ったんです。すると、聞く人の表情がパーッと明るくなって笑顔になった。自分が歌うことでみんなが幸せになってくれる。こんなにいいことはないなって。これが歌を歌おうと思ったきっかけだったんです」

自分の歌でみんなを幸せにしたい。40年たった今でもこの初心を大切にしている。

★夜行バス上京

歌手を志し、夜行バスで高知から上京したのは24歳の時。弟には「ダメだったら2度と帰らないからお母さんを頼む。その時はお兄ちゃんはいなかったものと思ってくれ」と伝え、退路を断った。知人の紹介でウエーターとして働いたレストランのオーナーがたまたま歌手の松前ひろ子(73)だった。松前と夫の作曲家中村典正さん(19年に83歳で死去)に弟子入りし、3年の修業をへて09年に「人恋酒場」でデビューした。

「中村先生からは『人間性を磨け』といつも言われました。『生きてきた道が歌になる。人の気持ちに寄り添える歌を歌え』と。亡くなって4年以上がたちましたが、今でもステージの片隅に座って見守ってくれているように感じます」

明るい歌声で人を笑顔にし、活力を与える。三山のデビュー当時からのキャッチフレーズは「ビタミンボイス」だ。

★らんまん出演

15周年の節目だった今年を「記憶に残る年になった」と振り返った。発売したCD「どんこ坂」「北海港節」の2作はいずれもスマッシュヒット。得意の落語を生かした「落語歌謡」という新ジャンルを開拓し、アルバムに曲を収録した。大阪・新歌舞伎座で座長公演を行い、故郷・高知が舞台となったNHK朝の連続テレビ小説「らんまん」では松坂慶子(71)と共演した。

「松坂さんはすごく優しくて、初の連続ドラマ出演で不慣れな私がNGを出しても『大丈夫だから』と言って緊張をほぐしてくれました。大女優さんで威厳はあるのですが、その場の空気をすごく良くしてくれる。すごいと思いました」

2人は撮影の合間にけん玉を楽しんだ。三山は2級指導員の資格を持ち、けん玉検定ができる。

「『ちょっと(検定技の)大皿をやってみてください』と言ったらカチッと見事に決めた。10級に合格してさらに9級まで。松坂さんは日本けん玉協会認定の『9級』をお持ちなんです」

さすがはけん玉大使。寸暇を惜しんで広報活動に余念がない。

今後の活動についてたずねると高知を代表する魚のカツオと自身を重ね合わせてこう表現した。

「カツオは回遊魚ですから止まったら死にます。私も止まったら死ぬんです。だから常に歩み続けて少しずつ階段を上って自分の山を築きます。登り続けないと目立つところにも行けない。常に挑戦し続けることを忘れず、来年からもしっかり頑張っていきます」

柔和な表情は絶やさないが、歌に取り組む姿勢はあくまで堅実でいちず。三山はこれからも、カツオのように芸の世界を自在に泳ぎ続ける。

▼三山の師匠・松前ひろ子(73)

縁があって私のところに来て3年。その後にデビューして15年。ずっと変わらずに笑顔を絶やさない、表裏のない子です。新幹線で移動している時でもいつも勉強をしている。見えないところでの頑張りがすごい。人の喜びを自分の幸せと考えていて点数を付けたら110点。家庭でも子どものお父さんとして頑張っています。紅白歌合戦には9回連続出場できて、これまでオリジナル曲を歌っています。本当に皆さんには感謝。これからも感謝の気持ちを忘れず歌い続けて欲しい。

◆三山(みやま)ひろし

本名・恒石正彰(つねいし・まさあき)。1980年(昭55)9月17日、高知県南国市生まれ。09年6月に「人恋酒場」でデビュー。NHK紅白歌合戦には15年から9年連続出場中。落語は高座名「三山家とさ春」を持ち、21年から落語と歌謡ショーを合わせた特別公演を開催している。特技のけん玉は4段で2級指導員。13年に「よさこい親善大使」、22年に「かつしか観光大使」。12年に松前ひろ子の次女と結婚。170センチ。血液型AB。

◆大皿

けん玉の技の1つ。初心者向き。玉を下にたらした状態から、まっすぐ引き上げて大皿(一番大きい皿)に乗せる。日本けん玉協会の級位認定で使用する技でもある。

三山ひろし(左)と師匠の松前ひろ子
三山ひろし(左)と師匠の松前ひろ子
コンサートが終わったばかりでも疲れなど全く感じさせない笑顔の三山ひろし(撮影・中島郁夫)
コンサートが終わったばかりでも疲れなど全く感じさせない笑顔の三山ひろし(撮影・中島郁夫)