11月29日に放送されたテレビ朝日ドラマ「リーガルV~元弁護士・小鳥遊翔子~」(主演米倉涼子、木曜午後9時)7話でのせりふです。

この場面に限らず、秋ドラマ界はなぜか土下座が多発していた。民放のドラマプロデューサーは「ドラマ界の傾向として、視聴者をスカッとさせないと当たらないと制作側が思っていて、そこの刺激を絵的にも物語的にも見せるのが土下座なのだと思う」と語る。悪役が土下座すれば留飲が下がるし、気の毒な土下座はそこからの逆転劇に効果的。つい使いたくなるというのだ。

個人的には土下座シーンが登場するとリアリティーがガタ落ちでしらけてしまうのだが、4年前の壁ドン多発と同様、ドラマ演出の流行りなのだと思えば、小ネタ探し感覚で楽しめたりもする。実際はもっとあると思うが、いくつか挙げると以下の通り。

◆「リーガルV」(テレビ朝日、木曜午後9時)

冒頭で紹介した7話のシーン。集団訴訟に負けた悪徳経営者(東ちづる)が、原告団の前に引きずり出されて謝罪。雑な謝罪にあきれた米倉涼子が「(和解条件の)深くおわびするって土下座ってこと?」と催促し、菜々緒が「頭を床にこすりつけなさいよ!」。東がムカムカとひざをついて「本当に申し訳ありませんでしたーっ」と盛大に土下座。

◆「下町ロケット」(TBS、日曜午後9時)

「半沢直樹」(13年)以来の土下座シフトが安定の日曜劇場。2話は、ビジネスパートナーを救いたい佃社長(阿部寛)が社員たちに「これは俺のわがままだ。すまん!」と涙で土下座し、社員が「それでこそ社長です!」。4話では、大企業に切り捨てられた下請け社長(古舘伊知郎)が、中尾彬とともに親会社幹部に「助けてください!」とダブル土下座。年月を経て、立場逆転で復讐へ。

◆「獣になれない私たち」(日本テレビ、水曜午後10時)

1話で新垣結衣が土下座し、秋ドラマ界のトピックに。取引先に「反省してるとこ見せてよ。土下座。なーんちゃって」と薄笑いされ、あきらめの境地でハイヒールを脱ぎ「申し訳ありませんでした」と土下座。「ごめんね」と頭をなでなでされる恐怖のおまけつき。2話では、倒産危機の会社社長(八嶋智人)が、昼も夜も会計士に土下座。松田龍平とガッキーが「土下座するような人が一番嫌い」「したくてする人なんていません」の土下座論。

◆「ハラスメントゲーム」(テレビ東京、月曜午後10時)

スーパーの店長(ココリコ田中)が、本社から出向してきた問題社員に店の秩序をめちゃくちゃにされ、「もうやめてくれ。私が悪かった」と土下座。コンプライアンス室長唐沢寿明が「店長が謝る必要ないよ」と、大岡裁き。

◆「中学聖日記」(TBS、火曜午後10時)

教師と生徒の禁断の恋がバレた5話。先生(有村架純)がクビになると知った黒岩くん(岡田健史)が母親に土下座。教育委員会に通報すると激怒する母親に「何でも言うこときくから、先生を辞めさせないでください。お願いします…」と、カーペットをつかむように必死の懇願。ピュアな制服姿と土下座のコントラスト。

◆「今日から俺は!!」(日本テレビ、日曜午後10時半)

ヤンキードラマに土下座はつきものだが、珠玉だったのは3話の伊藤健太郎。敵の高校に連れて行かれた京子ちゃん(橋本環奈)を助けるため単身で敵陣に乗り込み、血まみれで戦った末に土下座。「土下座すれば女を返す」という見せ場であり、足元が泥という環境、あおむけからの起き上がり方、両手をつく幅、「許して、ください…っ」と額をつくまでの角度など全体のフォルムが美しく、個人的にはこれが最優秀賞。

◆「あなたには渡さない」(テレビ朝日、土曜午後11時15分)

料亭女将と夫の愛人のドロドロバトルだけに、土下座は既定路線。1話は、木村佳乃と萩原聖人の夫婦の修羅場にベテラン仲居、荻野目慶子が割って入り「若奥さま申し訳ありません。私はただ、偽装離婚だと聞いて」と手際のいい土下座。着物と畳という、和を感じさせる風流な土下座。

民放関係者によれば、大和田常務(香川照之)の土下座効果で最終回視聴率42・2%を記録した「半沢直樹」(13年)のインパクトはやはり大きいようだ。冒頭のドラマプロデューサーは「ドラマの手法として、恋愛ドラマでも刑事ドラマでも、1度沈んだものが最後に勝つという第2の山が大きいほど盛り上がりやすい。そこのボトムを土下座で作りたいのだと思う」。絵的に派手なため、SNSでの拡散を見込めることも大きなポイントとしている。

秋ドラマも最終盤。それぞれの土下座がどう回収されるのか、されないのか、注目したい。

【梅田恵子】(B面★梅ちゃんねる/ニッカンスポーツ・コム芸能記者コラム)