興行収入82億5000万円と大ヒットした16年の映画「シン・ゴジラ」(庵野秀明総監督、樋口真嗣監督)で準監督、特技統括を務めた特撮監督の尾上克郎氏(58)が7日、都内の東京電機大東京千住キャンパスで講演会を開き製作の裏側を明かした。

 その中で、「シン・ゴジラ」で使った画期的な製作手法を、19年のNHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」の撮影にも生かす考えを明らかにした。

 尾上氏は“特撮の神様”と呼ばれる円谷英二氏を敬愛しており、同氏が東京電機大の前身・電機学校で学んだ縁から「『シン・ゴジラ』の作り方~内なる常識破壊から生み出されたイノベーション~」と題した講演会を開いた。講演の中で、日本円で約175億円をかけて製作された14年の米ハリウッド版「GODZILLA」(ギャレス・エドワーズ)が全世界で570億円、日本でも32億円の興行収入を挙げる大ヒットを記録したことを受けて製作・配給の東宝が新しいゴジラ映画の製作に踏み切ったことについて言及。「こんな映画と、同じ土俵で戦えと言われる、かなうわけがない」と当時の心情を語った。

 また「脚本も進まない。なぜ進まないか…常識外れの総監督」と、庵野総監督の脚本が進まなかったことも強調。ただ「映画の監督じゃない、アニメーション監督でプロデューサーとしても非常に優秀な方。いろいろなことを考えるので、的を絞るのに時間がかかるが出来たものは、誰もグウとも言えない、すばらしいものが出来てくる」と同総監督の並外れた能力をたたえることも忘れなかった。

 その上で、尾上氏は脚本の遅れの要因も含めた、「シン・ゴジラ」製作の具体的な時間の流れを説明した。企画、発案は12年5月になされ、13年10月にはプロット(あらすじ)が完成し公開日も16年7月29日に決まったが、14年1月に庵野氏がプロットの方針を転換。同10月に当時の脚本家の脚本がNGとなって庵野氏の脚本にシフトし、同11月に同氏が総監督になったことなど紆余(うよ)曲折あり、製作に必要な時間が4カ月足りない状況に陥ったという。

 打開策として、本来、撮影が終了した後に行われる編集、画像処理、音楽、音付けなどの「ポスプロ」を、撮影前に前倒しする作戦を考えたと明かした。「出来ていないのに先に仕上げるのどうするの? バカじゃないの?」と言われる中、米ハリウッドでも大作などで行われていた、VFX(視覚効果)に関わる複雑なイメージを事前に動画化し、共有する手法「プリビジュアライゼーション(プリヴィズ)」を日本で初めて導入したという。

 具体的には、樋口監督の絵コンテを元に、CGによるバーチャル空間の中で、俳優が演じる登場人物をCGで作り、声優の演技によりせりふを入れ、カメラアングルを決めて全ショットの撮影、編集を行う作業を6カ月かけて行い、本編2時間分の物語を作った。それを元に、実際に俳優を使った撮影を6カ月行うのと並行して本編で使うVFXの製作も進め、撮影素材が出来たら随時、プリヴィズで作った素材と入れ替えていき、完成を早めるプランで製作したという。

 尾上氏は、その中で、庵野総監督から「どうしても(ゴジラの)着ぐるみの動きは出したい。見えるようにして」などと細かい注文が出たことを明かし「(ゴジラの)目玉の大きさを決めるだけで2カ月かかってる」と苦笑した。

 尾上氏は、19年のNHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」で、VFXスーパーバイザーを務めるが「今後、今の映画とか、来年の『いだてん』でも、このシステムを導入してプリヴィズ使っていこうとしています」と明言。「日本人は決められたことが嫌で、縛られたくないという人もいるかも知れないが、お財布にやさしい」と、プリヴィズが経費の節減にも有効だと強調した。【村上幸将】