活字、テレビに代わって、ネットがメディアの主役になろうとしている時代。政治家の失言、芸能人の炎上、そして発言の一部を切り取った“言葉狩り”。1996年(平8)に俳優石田純一(65)が発した「不倫は文化」は、言葉の一部だけが切り取られて、芸能生命を脅かす大騒動になった。

渦中にあった本人が、あの騒動を語った。平成という時代はどんな時代だったのか。今日から連載で、この30年に芸能界で起きた出来事を振り返る。

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96年10月29日、一部スポーツ紙に「何が悪い? 不倫は文化 石田純一」という見出しが躍った。「不倫は文化」騒動の始まりだった。

前日28日に千葉で開催されたチャリティーゴルフ大会で、妻子ある石田と19歳年下のモデルの交際について取材陣が詰めかけた。日刊スポーツは「石田純一 不倫騒動の渦中チャリティーゴルフ大会に参加 しつこい記者に激怒」と報じた。

実は当日の石田は「不倫は文化」という言葉は発していない。「1人だけ残った女性記者が『不倫とかって許されると思うんですか!?』って聞いてきた。『あなたはあなたのお考えだと思うけど、そういうものが世の中の歴史上にも、いろいろずっとある。そういうことを全否定したら、芸術も全否定になっちゃいますよ』と、言いました」。

「不倫は文化」という言葉がひとり歩きを始めた。雑誌、ワイドショーが後追いして炎上した。

「趣旨としてはあっているので、僕は全然、気にしていなかった。でも、やはり女性は怒る権利がありますよね。結婚して子供がいる女性は『ふざけんなよ、クソ男!』みたいな感じ。いきなりドーンと、冷たい視線を浴びました」

88年にフジテレビのトレンディードラマ「抱きしめたい!」でブレーク。モテて当たり前の二枚目俳優だけに、最初は不倫騒動の影響もあまりなかった。その後、ほとぼりも冷めた97年3月からテレビ朝日の夕方の帯ニュース「スーパーJチャンネル」のキャスターを務めた。

「後追いで『また、会ってる』というのをやられた。夕方のニュースは対象の半分以上が主婦ですから、1年後に下ろされました。CMも番組も全部下ろされて、非常に困りました」

見出しを付けた新聞社の整理部レイアウト担当にも、その後対面した。

「言ってないことが有名になっちゃって、逆に申し訳ないな、くらいの感じでいた。『何が悪い? 不倫は文化』っていうタイトルだけ覚えていた。コピーライト力があるなと思っていました」

過去より、最近のネット上で展開される鋭利な言葉の応酬に危機感を持つ。

「アホだとか『反知性主義』のやりとりは不毛。ちゃんとファクトチェックが必要」。09年にプロゴルファー東尾理子と3度目の結婚をして、3児のパパ。国会前の抗議デモにも参加した。

「政府批判じゃなく、個々の政策について言っているだけ。憲法も今のままでって言ってるだけで、むしろ保守。平和な日本を変えて自分の子供が戦争に行く可能性だけは、ないようにしないと」

俳優業については「もう出演しなくてもいい、次はプロデューサーとか作る側の立場で参加したい。好きな言葉は中曽根康弘元総理の『政治とは文化を守るもの』。文化というのは人々の生活。そういうエネルギーを持ち続けるのが、大人の義務」。「不倫は文化」から23年、石田純一は「政治は文化」について熱く語っている。【小谷野俊哉】

◆石田純一(いしだ・じゅんいち)1954年(昭29)1月14日、東京生まれ。早大在学中に演劇の勉強のため米国留学。79年にNHK「あめりか物語」でデビュー。俳優以外でも司会、キャスター、バラエティー番組出演などで息の長い活躍を続けている。最初の妻との間に俳優いしだ壱成(44)、2番目の妻の女優松原千明(61)との間に女優すみれ(28)がいる。09年に結婚したプロゴルファーの妻・東尾理子(43)との間に1男2女。