「『恥』って(手を30センチほど広げ)このくらいの大きさで。大きかったですよ(笑い)」。

11日の紙面から始まった平成の芸能史を振り返る連載「平成プレイバック」のため、日本テレビ土屋敏男氏(62)を取材した時の一言だ。伝説的バラエティー「進め! 電波少年」のTプロデューサーは、24年前の、ある日刊スポーツの紙面を克明に覚えていた。

95年、同番組の企画で、当時離婚調停中だったペルー大統領に、タレント宮前真樹がウエディングドレス姿でプロポーズした。すると現地紙が「大統領に失礼」なとど猛批判したという記事を通信社が配信し、日本の各メディアが報道した。日刊スポーツは「日本の恥」との大見出しで伝えた。ただ結果的には、地元紙がそこまで猛批判した事実はなかったとして、企画は予定通り放送された。

土屋氏はインタビュー冒頭で回想した。「あの時は大変だったですよ。向こうの番組を取り寄せて直訳して『いや、(現地メディアは)全然怒ってない。日刊スポーツはうそを言ってる!』って社内で説明して」。当時の記憶は鮮明だ。ただ恨みがましい様子はなく、笑顔で続けた。「現地の通信社が(記事を)出したんですよね。実際、ペルーの番組で紹介しているのを見ると、シャレをやりに来た日本人がいてほほえましい、という報道だったんです」と説明した。

日刊スポーツの取材ということで、言いたかったのだろう。ただ、自分の番組を批判された報道の話題であっても、語り口は楽しげだった。土屋氏は「それにしても、かなりでかかったですよ、『恥』って。本当にありがたかったですけど」と繰り返した。そこには、電波少年でバラエティーの常識を一変させただけの懐の深さと、シリアスなこともあえて笑いに変えてきた、強いサービス精神がかいま見えた。

土屋氏はインタビューの最後まで「恥」ネタをツッコんできた。当時の撮影で発生したトラブルの解決方法の話題では、「消火に失敗すると『日本の恥』になっちゃう」。現在携わる、64年の東京を仮想現実で再現するプロジェクトの話題では「今度は『日本の誇り』って新聞に載せてね」。そういうと、約20年前に電波少年で松村邦洋らにムチャぶりをしていた時と変わらない、いたずらっぽい笑みを浮かべた。【大井義明】

(土屋氏が電波少年と平成のバラエティー番組を語った「平成プレイバック」は12日の紙面および、ニッカン・コムで掲載)