昨年1年で出演した映画は14本…映画に生きる俳優・渋川清彦(44)が連続ドラマに初主演した「柴公園」が映画化され、14日に公開された。柴犬を飼うおっさん3人が、公園で無駄話を続ける異色さ、連ドラ全10話の放送と映画化の発表が同時にされたことで話題となった。渋川が日刊スポーツの取材に応じ、思いを語った。第1回は柴犬との共演と、女優との“ぬれ場”の共通点。【村上幸将】

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「柴公園」は、柴犬を散歩する中、決まった時間に公園にやってくる3人のおっさんが“ダベる”無駄話と、町で起きた出来事の数々を描く。撮影は連ドラ全10話と映画1本を1カ月強で行う過酷なものだった。その中での癒やしは、共演の柴犬だった。あたるを演じたのは、赤芝の「きぃ」。渋川のモデル時代の芸名「KEE」(キー)と重なったのも因縁めいている。

渋川 撮影のスケジュールもビッシリだったんで…。その中(犬と一緒にいて)心は和むこともありましたよ。(名前の一致は)偶然ですけどね(笑い)かわいいですよ。子供が、まだちっちゃいんですけど「会いに行く」と言って、会いに行ったりしていますね。

企画・配給のAMGエンタテイメントは「幼獣マメシバ」「猫侍」「猫忍」などの動物ドラマシリーズに定評があり、渋川も出演歴があった。きぃとの共演では、その経験が生きた。

渋川 同じAMGが作る「猫忍」でも、忍者のチームのボスをやりましたし(動物との共演は)結構、あるんですよね。朝、現場に行って、支度が終わってから現場が始まるまでの間、みんなで散歩に連れていっていましたよ、いろいろ。公園の周りをグルグル回ったり、違うところに行ったりとか、接するようには、すごくしていました。

渋川が撮影で意識したのは、柴犬をいかに良く見えるように映すか、ということだった。それは“ぬれ場”で女優と共演した時と、同じ感覚だという。

渋川 (きぃとの連携は)トレーナーの北村まゆみさんとのコンビネーションですね。基本的に犬…特に柴犬は、その人を認識したら何となくやってくれる。猫は無理ですけど。犬に合わせていかないと、なかなかうまくいかなかったりするけれど(撮影中に)だんだん犬が良く見えればいいなと思ったりもありました。例えば、ラブシーンで女優の顔をカメラに向けようとか、というのと一緒なのかなぁ。(山田真歩と、ぬれ場を演じた15年の映画)「アレノ」もそうですね。

劇中では、犬に服を着せるか着せないかで3人の飼い主のおっさんの議論が紛糾したり、服を着せない犬を「裸族」と呼んだり、犬好きのツボにはまるネタも随所に盛り込まれている。企画・脚本の永森裕二氏の存在が大きいという。

渋川 今まで犬シリーズをやってきている永森さんが「幼獣マメシバ」をやってから、柴犬を好きになって飼い始めたんです。それで普段、散歩して公園で名前も知らないけど、よく会う人がいるみたいで…それ(自らの体験談)に色を付けているからリアリティーがあるし、都会で犬を飼う人は「ある、ある」と思うんじゃないですかね。

柴犬との共演ならではの、撮影現場でのエピソードも明かしてくれた。

渋川 じっちゃん役の、くぅは黒柴のメスなんですけど…女の子の日が来たんです。そうしたら、男の子の柴犬は、きぃだけなんですけど、じっちゃんのお尻をずっと追っかけているので大変でした(苦笑い)

柴犬を飼う3人のおっさんは、飼っている犬の名前から、互いをあたるパパ(渋川)、じっちゃんパパ(大西信満)、さちこパパ(ドロンズ石本)と呼び合い、基本的には私生活には深入りしない。都会の希薄な人間関係が描かれるが、そこを肯定も否定もしない物語だ。

渋川 (都会の希薄な人間関係を)別に否定しているわけでも肯定しているわけでもないのが、いいんですかね。俺も、そうかも知れないと思いました。

真面目ながら一風、変わったキャラクターのじっちゃんパパを演じた大西信満は、所属事務所が一緒で共演も多いが、新たな発見があったという。

渋川 大西が、すごく良かったですよね。本人も分かっていると思うんですけど、コメディーがすごく良い。性格が超実直なんで、逆に面白い。変なところで切れキャラになっているじゃないですか? 綾部真弥監督が、そうしろと言っているのじゃなくて、自発的にそうなって出てきたもの。監督は、そこを面白がっていて…そういう部分で演出はほとんどないですね。

ドロンズ石本の、ほのぼのとしたキャラクターも含め、3人の間に漂う空気感が、この作品の肝だ。

渋川 (3人の関係性は)良かったと思いますよ。それぞれのキャラに、ちゃんと合っていたと思う。すごくキャスティングが良かったですね。石本さんも人柄がそのままですよ。(役に)はまっていますね。

09年から14年までドラマと映画が4作ずつ作られた「幼獣マメシバ」シリーズに主演した、佐藤二朗(50)が、同じ芝二郎役で出演しているのも見どころだ。

渋川 共演は楽しかったですね。二朗さんは、もともとの「幼獣マメシバ」のキャラクター通りにやっていて、とっぴなことを、あえてしてくるわけでもなかったので。

14日に公開された映画では、佐藤が演じた芝二郎との交流含め、渋川演じるあたるパパがひた隠しにする1人暮らしの日々、寺田農(76)演じる父光蔵との関係性が描かれる。ライトなドラマ版から一転、あたるパパの苦悩の表情含め映画はシリアスな展開となる。

渋川 お父さんも出てきますが(演じる際の)意識は、そんなに変わっていないですね。演じ分けるとかはなく、脚本がそうさせてくれたんじゃないですかね。セリフに任せているんですかね。「ずっと放っておかれましたよ」って言っていますからね。

次回は、渋川が初めての挑戦となった連ドラの主演と、ドラマと映画を並行した撮影の苦悩を語る。

◆渋川清彦(しぶかわ・きよひこ、本名田中清彦=たなか・きよひこ)1974年(昭49)7月2日、群馬県渋川市生まれ。プロのバンドを目指して上京後、19歳の時に米の写真家ナン・ゴールディンと出会い写真集「Tokyo Love」のモデルとなった。その後、KEEの名でモデルとして活動。98年「ポルノスター」(豊田利晃監督)で映画デビュー。06年に現在の芸名に改名。15年の「お盆の弟」「アレノ」でヨコハマ映画祭主演男優賞受賞。主な出演作は13年「横道世之介」「千年の愉楽」、16年「下衆の愛」、18年「榎田貿易堂」「菊とギロチン」「泣き虫しょったんの奇跡」、19年「半世界」など。「日本のまんなか しぶかわ観光大使」を務める。175センチ。