14年の映画「百円の恋」で第39回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞した、脚本家の足立紳氏(47)が、相次いで新作を世に送り出している。

監督を務めた映画「喜劇 愛妻物語」(20年公開)が、19年11月の第32回東京国際映画祭で最優秀脚本賞を受賞。映画祭に先立つ同10月には、妻にセックスを拒絶されて悶々とする、売れない脚本家を描いた自伝的小説「それでも俺は、妻としたい」(新潮社)を出版し、評判を呼んでいる。

足立氏と妻の晃子さん(43)が日刊スポーツの取材に応じ「それでも俺は、妻としたい」の元となった夫婦の生活を赤裸々に語った。第1回は、小説に至るまでの、夫婦の歩みを語った。

【取材、構成=村上幸将】

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「それでも俺は、妻としたい。」は、17年から「小説新潮」に連載された。40歳を迎えても年収50万円の脚本家「俺」は、働く妻チカのヒモ状態の中、愛情表現の一環として毎夜セックスに励んでいた。それが、「ヤダ」の一言で妻から拒絶されるようになり、巨乳を3カ月も触らせてもらえずにいた。劇中では、仕事の依頼すらない状況の中、苦手な医療系のシナリオを妻に書かせたり、子どもが通う保育園のママ友とスワッピングするなど「俺」のどうしようもない姿と、なじりながらも夫の才能を、ひそかに信じるチカの心情が描かれる。

足立氏(以下、足立) (執筆の)最初は、だんなのことをこれだけ、ひどい言葉で罵倒する女がいるんだぞということを知らしめてやりたい、お前のひどさを何とかして世の中に訴えたいという思いがあったんです(苦笑い)

--信頼関係がないと、人に言いたい放題、言うことは出来ないのでは?

晃子さん(以下、妻)いろいろな人に言っているわけじゃないから(笑い)付き合いが長いからかな。社会人として付き合っていないので。私が20歳の学生時代からだから(足立氏が)助監督の頃しか知らない。(普通の)社会人としての彼の仕事っぷりを知らないんですよ。その後はヒモだし、リスペクトはないんだけど(笑い)

足立 その(助監督の)時、格好良いと思ったんでしょ?

妻 大人に見えたから…24歳の社会人で。声を出して現場を走るのに、キュンキュンときめいちゃって(苦笑い)

--結婚生活は何年?

妻 2003年に結婚したんだっけ?

足立 それくらい。小説の中にもエピソードとしてありますけど、結婚して10年くらいの時に1回「1年以内に結果を出せ!」って言われて。あの「結果」というのが恐怖で。

妻 やっても、やっても、全く仕事がなくなって。

足立 でも、映像業界って(企画を出してから成立まで時間がかかるから)1年で結果を出すのは無理。メチャクチャ重い言葉で、そんなの言われたのが初めてで「うわっ、こいつ本気だ」と。怖くて…。多分、彼女の怒りなのか何なのか薄らいだのか、諦めたのか…。

妻 本気だったよね。私、多分、離婚したかったんですよ。あの時、まだ子どもは1人だったから、私1人でも育てられると思ったので。もう1人の子ども(夫)がいるから1番、大変で…。上の息子(夫)の方が大変なので、女の子1人だけだったら、私1人でもやっていける、と思って…。でも(足立氏が)出て行かないから、どうしようと…。

足立 出て行かないのが結構、得意技なんですよ。

妻 しかも、切れながら。「絶対、出て行かないぞ!!」みたいな。

足立 切れはしないですけど。とにかく、出て行かずに根気強くい続ける。「出て行け!!」だったら、1000回くらいは言われているような気がしますよ(笑い)

--「出て行け」と言う時は、どういう気持ち?

妻 やっぱり、この人、格好良くないなって、ずっと思っていた。グチグチ、グチグチ、文句ばっかり言って、仕事もなくて。何か、こいつと一緒にいると私もダメになるし、こいつも私に甘えて多分、ダメになると思って。見たくなかった感じ。

足立 ダメになっていたよね。

妻 お前は私がいなくても、誰かヒモみたいなものは見つけるし、実家に帰れば息子を溺愛するパパやママがいるんだから、帰ってしまえ、視界から消えてくれと(苦笑い)

足立 子どもが出来て、家事と育児を真剣にやろうと思って。その時、初めて「すごい、これ、向いてるんじゃん?」って、本当に、ちゃんとした“専業主夫”になろうと思ったんですよ。その時に、俺、何年ぶりに真剣に生きているんだろうって実感を持って、上の娘が生まれてから3歳くらいになるまでは1歩1歩、真剣に生きることが出来ていたんですよ。天職くらいに思いましたね。

妻 ダメだね(苦笑い)私は全然、そこを求めていないから。すごい、俺やった感でアピールされても、ちっとも褒められないし。

足立 よく、男女差別のようなことで言い合いになるんですけど、彼女は、うちの母親に「私は“専業主夫”と結婚した覚え、ないですから」ってセリフをはいたんですけど、男の“専業主夫”を、あまり認めていないよね。

妻 男の“専業主夫”、女の専業主婦という話じゃなくて、パートナーとして、その生き方は、ないって思ったわけ。でも、仕事が出来ないからね。どのバイトをやってもクビになっちゃうし(脚本を)書いても書いても売れないから。でも…この人、仕事をばかにするんですよ! 「コンビニの仕事なんか、誰でも出来る」って言って、レジで新聞を読んで、怒られたのも実話だし。

足立 仕事は、ばかにしていないよ。久しぶりのバイトだったから、感覚が分からなくて思わずレジで新聞を読んでしまって、すごい怒られました(苦笑い)

妻 でも、すぐ「俺は、こんなことをやる人間じゃねぇからな」みたいな、ナメた態度を取るんですよ。そういうところが鼻について、私は大嫌いで。

次回は「それでも俺は、妻としたい」でも赤裸々に描かれた、一定期間、人生をともにした夫婦の性生活について、その現実と、適度に関係を保つ秘訣(ひけつ)を聞く。