今年のブルーリボン賞で主演男優賞となった中井貴一(58)が「来年、司会をすることになります。授賞式は司会者の腕にかかっている、と言われているので今日は最初から司会ばかりに目が行ってしまいまして…受賞スピーチのことを全然考えられませんでした」と冗談めかして話した。その目の先には昨年の主演賞受賞者で、今年司会を務めている舘ひろし(69)が苦笑いしていた。

先日、開催された授賞式のひと幕だ。スポーツ各紙の映画担当記者が選考委員を務めるブルーリボン賞では、毎回前年の主演男女優賞コンビが司会者を務めることになっている。予算の少ない記者会の賞に受賞者本人に協力していただいているわけだ。前年の授賞式で表彰状と「記者の象徴」として万年筆を贈っただけで、翌年の司会はノーギャラである。

イベント進行も担当記者だけで行うので、手際は決して良くない。それでも、歴代受賞者には快く引き受けていただき、しっかりとときにユーモアを交えながら式を盛り上げていただいている。主催側の1人として毎年頭の下がる思いである。

中井は続けて「来年一緒に司会をする(今年主演女優賞の)長沢まさみさんとは、映画『グッドモーニングショー』でキャスター・コンビをやっています。あの時にリハーサルを済ませているので『えーっと、次は何だっけ?』とかは言いません」と、舘が何度も会場の笑いを誘った「おとぼけ」をからかった。

実は舘は本番前のリハーサルから参加。台本はしっかり頭に入っていたはずなので、あの「おとぼけ」は今年の受賞者の緊張をとき、会場をなごませるためのサービスだったのだと思う。対照的に生真面目な進行ぶりで「名パートナー」となった昨年主演女優賞の門脇麦(27)からも「役者の皆さんから日頃は聞けないお話をうかがえ、いい勉強になりました」とありがたい感想をいただいた。

ブルーリボン賞が評論家主体の他の映画賞と違うのは、撮影現場を取材している記者が選考していることだ。作品、演技の出来栄えはもちろんだが、撮影現場での姿勢や取材対応も無意識のうちに基準の1つになっている。いわば俳優さんたちの人柄込みの賞と言ってもいいかもしれない。

授賞式の心のこもった司会ぶりを目の当たりにするたびに、そんな賞の持ち味を改めて実感する。