演歌歌手五木ひろし(72)が、カバーアルバム「演歌っていいね!」を8月26日にリリースすることが5日、分かった。

若手演歌歌手のヒット曲を厳選。氷川きよし、純烈ら後輩歌手の曲を大御所の五木が歌うという異例の作品だ。コロナ禍でエンタメ業界も低迷する中、若手歌手を応援したいという意味合いも強い。五木に日本の演歌歌謡曲界の行く末も含めて聞いた。

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歌手五木の信条は挑戦と継承だ。これまで200枚超のアルバムをリリース。あらゆるジャンルの曲に挑戦し、過去の名曲を次の世代につないできた。「いい歌をいい曲をつないでいきたいというのが僕の歌手としての思いなんです。だから、いい曲をカバーしてきました」。

新アルバム「演歌っていいね!」は氷川、純烈のほか、山内恵介、三山ひろし、市川由紀乃、丘みどりら、いわば五木門下生の若手歌手の曲をカバーした。彼ら、彼女らの曲を選んだのにも五木なりの理由がある。「若手の歌手に頑張ってもらい、演歌歌謡曲の世界を盛り上げてもらいたい。山内くんをはじめ、紅白歌合戦にも出場するようになり、活躍は目覚ましい。でも、もっと僕が思っている成長を成し遂げてほしい。第2弾ができるように若手の成長を期待しながら、第1弾を作りました」。

もともと五木は他人の曲を歌うのが好きだった。その人の個性を尊重しながら、自身らしく歌うのが楽しみだったという。「若手の曲を歌うのはある意味チャレンジでした、72歳の僕が歌うんですから。でも、自信があったからやりました。結果、レコーディングを無事にやりとげましたけどね」と笑った。

五木が歌うことに、若手の歌手らは戸惑いはないのだろうか。自分よりうまく歌われてしまったら…。座長公演で共演を続けている坂本冬美からは「私よりはうまく歌わないでくださいね」と言われたという。「冬美ちゃんに伝えた時にね、半分は冗談でしょうけど。でも、僕が歌う以上、本人よりはレベルはあげたいとは思っています。それを若手が聞いてまた刺激になってくれればいい。切磋琢磨(せっさたくま)というか、お互いを意識しあえるようになってほしい」。

氷川の曲を歌うのも業界の大きな話題だ。紅白では氷川もトリを務める立場となり、ある意味ライバルでもあるからだ。「いえいえ、かわいい後輩の1人です。最近はあっちの方に行きがちですが、『最上の船頭』はいい歌です。水森(英夫)門下生でもあるし、やっぱり彼は演歌ですよ。僕は、昔から彼には幅広い歌を歌ったほうがいいと言い続けてきました。そして、彼にはライバルが必要だとも。山内くんもでてきているし、若手が固まって、演歌歌謡界を引っ張ってもらいたいと思っています」

挑戦しがいがあったのは、福田こうへいの「アイヤ子守唄」だという。「彼は音域も広いしキーも高い。でも、僕なりに民謡も知っているのでしっかりと歌いました。13曲を歌いましたが、歌えたのは自信につながった。72歳でできたから、あと10年は大丈夫だと思いました」。

原曲をそのまま歌うのもポリシーだ。それはその歌手、曲へのリスペクトでもある。「アレンジを変えてしまうと別の曲になってしまいますから。イントロを聞いたら本人の歌だと思うし、追悼の時でもそのまま使えます。これは僕の持論なんです」。そして、若手の原曲も、少し前の曲を選んだ。新曲だと本人の活動をかぶってしまうという配慮からだ。

コロナ禍はエンタメ業界も大きな影響を受けた。コンサートや舞台が軒並み中止や延期に。若手歌手からは相談を受け、食事に誘い、励ましてきた。自らはこのアルバムを制作。8月20日は新日本フィルとのコンサートを、9月1、2日には浅草公会堂でギターの弾き語りライブを敢行する。「大変な時だからこそ、攻撃しないとダメだと思うんです。じっと耐えて収束を待ち、自粛するだけではダメ。最大限の注意を払って動こうと決めました。僕が動けば、若手歌手たちも『五木さんがやったなら』と続いてくれればいい。誰かがやらねばならないし、それなら僕が先頭を切ろうと。歌謡界で頑張ってきた分、その責任感はある。そういう役割なのかもしれません。徐々にだし、お客さんも半分の半分かもしれないけど、でもトライしよう、前進しようと思います」。

夏が過ぎれば、年末のNHK紅白歌合戦の話題が増える。コロナ禍で例年のようなステージは望めないかもしれないが、五木は、出場すれば50年連続50回目となる。五木ならではの5並びの偉業だ。「49回も出させていただいたので50回を達成したい気持ちはあります。でも、これは選んでいただければの話なので。ただ、50回は大きな目標です」。