黒沢清監督(65)の映画「スパイの妻」(10月16日公開)が、イタリアで開催された世界3大映画祭の1つ、ベネチア映画祭コンペティション部門で銀獅子賞(監督賞)を受賞した。

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、授賞式に出席出来なかった黒沢監督は、映画祭にビデオメッセージを寄せ「いやぁ…まぁ、大変驚いています。それと、言葉では言い尽くせないような、喜びを感じています。第77回ベネチア国際映画祭の関係者の皆様、審査員の皆様、この映画を世界に先駆け、いち早くご覧になってくださった観客の皆様に感謝をささげたいと思います」と感謝した。

「スパイの妻」は、太平洋戦争前夜の1940年(昭15)の神戸が舞台。高橋一生(39)演じる貿易会社を営む福原優作が満州に赴き偶然、恐ろしい国家機密を知ってしまい、正義のため事の経緯を世に知らしめようとする。一方、主演の蒼井優(35)演じる優作の妻聡子は、自らのあずかり知らないところで満州から謎の女を連れ帰り、油紙に包まれたノートや金庫に隠されたフィルムなどを持ち込む、夫の別の顔に疑問と不安を抱きつつも、夫婦愛から夫と行動をともにしようと突き動かされていく物語だ。

銀獅子賞の受賞は1952年(昭27)「西鶴一代女」の溝口健二監督、1989年(平元)「千利休 本覺坊遺文」の熊井啓監督、2003年(平15)「座頭市」の北野武監督以来、17年ぶり4人目。黒沢監督は世界3大映画祭の1つ、カンヌ映画祭(フランス)で08年「トウキョウソナタ」で「ある視点部門」の審査員賞、15年「岸辺の旅」で同部門の監督賞を受賞しているが、初めて作品を出品したベネチア映画祭で銀獅子賞受賞の快挙を成し遂げた。同賞以来、5年ぶりの国際映画祭での受賞に「長い間、映画に携わってきましたけれど、この年齢になってこんなに喜ばしいプレゼントをいただけるというのは、夢にも思っていませんでした。本当に長い間、映画を続けてきて良かったなぁと、今しみじみ感じております」と感謝した。

9日にベネチアで行われた会見にも出席できず、東京とベネチアとを中継をつないで会見を行った。この日も、受賞しながら銀獅子賞を直接、受け取ることが出来ず「そちら(ベネチア)は、さぞや華やかで熱気に包まれていることだと思うんですけども、残念ながら僕は今、東京にいて、そちらにお伺いすることが出来ません。すみません。本当に今回は、ありがとうございました」と喜びつつも、ベネチアに行くことがかなわなかったことを惜しんだ。

◆黒沢清(くろさわ・きよし)1955年(昭30)7月19日、兵庫県生まれ。立大社会学部で蓮実重彦氏に師事し、8ミリ映画製作を開始。故相米慎二監督の81年「セーラー服と機関銃」などで助監督を務め、83年「神田川淫乱戦争」で監督デビュー。97年「CURE」以降、ホラーやサスペンス作家として世界的に評価される。人間ドラマを描いた作品でも高い評価を受けている。東京芸大大学院映像研究科映画専攻教授。