来年春に決勝が開催される「R-1グランプリ2021」の概要が、先月25日に発表された。今回から「プロは芸歴10年以内」に規定が変わった。

名前を挙げることはしないが、R-1でしか見ることのない、何人かの芸人の顔が思い浮かんだ。だいたいは、あまり面白くなく、なんで上位に進出してくるのかと不思議に思う人も…。そして本人たちも、それを自覚して、滑ったり自虐で小さな笑いを取っては、また1年後にかける。そんな光景だ。

だが、本当に心配になったのは、13年の王者、三浦マイルド(43)だ。芸歴13年で年収30万円の身でつかんだ栄光だった。

“マイルド師匠”は「育ててくれた大阪の客に恩返しをしたい」という思いのために、上京したのは優勝から1年後。既に旬の時期は過ぎてしまった。

だが、マイルド師匠は不屈の闘志で立ち上がった。薄くなったトレードマークの前髪をきれいに刈りそろえ、フリップ芸で毎年のように2回目の王者を目指して再挑戦。春になると、まるで虫や獣が冬眠から目覚めるがごとく、R-1準決勝、決勝への勘を養うために小さなお笑いライブに出演する。デビューしたての若手や無名の芸人に混じって、新ネタを磨くマイルド師匠の姿が大好きだった。

さぞやショックだろうと、ツイッターをチェックしてみると、開催要項発表当日に「サヨナラR-1ぐらんぷり。マイルド軍団チャンピオンシップ2021に向けてネタ作ります」と新たな“お笑い革命”に向けた決意を表明していた。

世間的には「R-1王者になったけど爆発的には売れなかった人」のイメージが強いマイルド師匠だが、お笑い界での人望はすごいものがある。大阪でくすぶっていたり、修業を積んだ芸人に話を聞くとマイルド師匠に世話になった話をよく聞く。その芸人たちがマイルド軍団だ。

M-1も19年霜降り明星、20年ミルクボーイとマイルド軍団のメンバーが優勝した。売れっ子でお金持ちの先輩芸人もありがたいが、売れないつらさを身をもって知りアドバイスするマイルド師匠の優しさは、後輩芸人たちに染みついている。

「芸歴10年以内」になったのは、さまざまな理由があると思う。昨年のマヂカルラブリー・野田クリスタル、一昨年の霜降り明星・粗品をはじめとするコンビ芸人の優勝、そして何より歴代王者がなかなか大ブレークしない。

じゅんいちダビッドソン(45)は「R-1ぐらんぷり2015」王者になった後も、自らの努力で売れ続けている。取材する機会があったので、新規定について聞いてみると「R-1はピン芸人の楽しみ。なぜベテランが優勝するかというと、コンビ活動を経て、解散して芸歴を重ねてたどり着く。腕力がついてきた芸人が優勝するもの」と説明してくれた。

自身も97年にお笑いコンビ「アパルチ」で芸人デビュー。解散して、00年にお笑いコンビ「ミスマッチグルメ」を結成、11年に解散を経てピン芸人になった。本田圭佑のそっくりさんネタで王者になったのは、芸歴19年目だった。「最初からピンでやるやつは変わっているから、10年以内で終わってしまいがち。10年以降にコンビを解散して、力をつけてR-1で活躍するのに」と規定変更を惜しんだ。

定年になって会社を辞めたら、毎年ボケ防止にR-1に出場してやろうと考えていたが、プロなら芸歴10年以内、アマチュアは10回までとなって、うかつに出場することはかなわなくなってしまった。

生まれ変わった「R-1グランプリ2021」が、どんな王者、どんな笑いを生み出してくるのかを注目したい。