今年、俳優妻夫木聡(40)を2回インタビューする機会があった。1回目は10月。妻夫木主演のTBS日曜劇場「危険なビーナス」に合わせて本紙インタビュー面「日曜日のヒーロー」に登場してもらうための取材だった。

2回目は12月。28日に発表された日刊スポーツ映画大賞の助演男優賞受賞に際し、話を聞いた。1回目の取材の最後、妻夫木から「10年後くらいにまたインタビューしてください」と言われた。

わずか2カ月後にインタビューをすることになるとは思わなかったが、12月に「TBSで取材させてもらった者です…」と切り出すと「こないだじゃないですか! 覚えていますよ」と気さくに答えてくれた。“ドラマのTBS”と言われる同局の看板枠で主役を張るということで、この間に数多くのインタビューを受けたことが予想されるが、さすがの記憶力だ。

しかし、もっと驚いたのは、取材前に行った映画賞授賞式の時だった。毎年、映画賞の授賞式はステージ上で華やかに行うが、今年はコロナ禍の状況を鑑みて、インタビューの日程にあわせて弊社社長が賞状や盾などを手渡す形に簡素化して実施された。

妻夫木の前に社長が現れると、妻夫木が「あ、あの時の…」とつぶやいた。後に話を聞くと、約10年前に映画で新聞記者役を務めた妻夫木が、役作りのために、弊社を見学し、現社長が編集局次長時代に社内を案内したのだという。わずか1日のできごとをここまで鮮明に覚えているのは、驚異の記憶力だ。

振り返ってみると、妻夫木の記憶力の良さの理由は10月のインタビューの際に少しヒントがあった。「職業病で、どんなことでもやっぱり俳優のことがよぎるんです。例えば誰かに久々にあった人たちを見たりするときの表情とかを見ちゃうんです。こういうリアクションを取るんだって思っちゃう」と、俳優業に生かすために人の表情や反応を細かく観察するクセがあることを明かしていた。

「いろんな表現の仕方を、やっぱり僕たちは引き出しを持たなきゃいけない」と語り「やっぱり間近で見ているものが一番信用できることだから経験なんですよね。なるべくいろんな経験をしようとは心がけていますね。新しいことに挑戦するとかそういうことっていうのは大事な気がします」と言っていた。

妻夫木の驚異の記憶力は、どこまでもストイックで、貪欲な仕事への姿勢の表れなのかもしれない。【佐藤成】