今月17日に米ジョージア州アトランタ周辺のマッサージ店が銃撃されて6人のアジア系女性を含む8人が亡くなったことを受け、アジア人を狙った憎悪犯罪(ヘイトクライム)の可能性が指摘される中、記者会見でその見方を否定した保安官が自身のSNSで人種差別的投稿をしていたことが発覚した。

全米では、新型コロナウイルスの感染拡大が始まった昨年3月以降、アジア系住民を狙ったヘイトクライムが急増しており、死者の半数が韓国系であったことなどからアトランタでの銃撃事件も容疑者の動機が人種的憎悪にあるとの見方が強まっている。しかし、事件後に記者会見に応じたベーカー保安官は、犯行の動機を「とてもついてない日だったようだ」と語り、人種差別的な偏見ではないと説明して全米のアジア系住民の怒りを買っていた。

米メディアによると、同保安官は昨年3月と4月に「COVID-19(新型コロナウイルス感染症)」と書かれたロゴの下に「Imported virus from CHY-NA(中国から輸入されたウイルス)」と文字が描かれたTシャツの画像を自身のフェイスブックに投稿していたという。報道された直後に投稿は削除されたが、問題視した多くの人によってこの投稿は拡散されており、同保安官が「気に入っている。在庫があるうちに買っておくように」などと購入をすすめるコメントも添えているのが確認できる。報道によると、問題のTシャツはベーカー保安官と同じチェロキー郡の元保安官が経営する店で販売していたものだという。

昨年3月以降、全米ではアジア系住民を標的にしたヘイトクライムが3800件近く起きており、高齢者が道路に突き飛ばされて亡くなる事件など悪質な犯罪も増えている。トランプ前大統領が、新型コロナを「中国ウイルス」や「ウーハン・フルー(武漢のインフルエンザ)」などと呼んだことを発端に、アジア系への差別が増加。「カンフーウイルス」「自国に帰れ」などとののしられたり、暴力を振るわれるケースなどが今年に入ってからも急増している。

警察当局によると、21歳のロバート・アーロン・ロング容疑者は犯行を認めているもののヘイトクライムであることは否認しており、性依存症を患っていることから「邪悪な誘惑を取り除こうと思った」などと犯行について語っているという。しかし、数多くあるマッサージ店の中からアジア系が経営する3店舗をわざわざ選んで犯行に及んでいることや、被害者の多くがアジア系であることなどから人種的な偏見が動機だったと考える向きが大半を占めており、ホワイトハウスの報道官も前大統領の発言がヘイトクラムの増加につながっているとの見解を述べている。(ロサンゼルス=千歳香奈子)