尾上菊五郎(78)が「五月大歌舞伎」(3~28日、東京・歌舞伎座)で、当たり役の1つ、「仮名手本忠臣蔵」の六段目「与市兵衛内勘平腹切の場」の早野勘平を演じる。先日、取材会が行われ、ユーモアたっぷりに役の「企業秘密」を語ってくれた。

物語は、主君への忠義を貫くためあだ討ちに参加したいと手を尽くす勘平が、さまざまな行き違いで切腹するまでが描かれている。勘平には複雑な心情が渦巻き、その感情がさまざまに変化し見え隠れする。15回目の菊五郎も「難役中の難役ですね」と言うほどだ。

しかし、まず菊五郎が明かしてくれたのが、おしろいを体中に塗る準備の大変さだ。「こんなに塗るか、というほど。塗るところが多いので、早めに顔(化粧)をし始める」そう。勘平は腹を出し、あぐらをかいて切腹をするため、腹はもちろん、足の付け根や、おしりの方までおしろいを塗るのだとか。通常なら見えているところだけでいいのだが、そうはいかない。足だって、前面は塗られているのに、後ろはそのままというわけにはいかない。

扱う小道具もたくさんあり、着替える場面があったり、細やかなしぐさも本当にたくさんある。菊五郎は「企業秘密が多くて、本当に気が抜けない」と笑った。見た目の難しさをまず語って、入りやすくしてくれたのは菊五郎らしい。

明るく話してくれたが、役としては「頭の中がこんがらがって、神経がまいってしまうような役」だという。切腹も精神的に引きずってしまうのだとか。25日間演じ抜く、体力と精神力が必要なことがよく分かった。    【小林千穂】