星組期待の男役スター真風涼帆が、兵庫・宝塚大劇場で上演中のミュージカル・ショー「ノバ・ボサ・ノバ」(5月16日まで)で、男女3役の役変わりに挑戦している。入団6年目。同3年目に新人公演主演に抜てきされ、成長途上の有望株が、新たなハードルへ立ち向かう。東京宝塚劇場では6月3日~7月3日。

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切れ長の目、長い手足、175センチの長身。男役スターとして天分に恵まれた真風は、入団6年目に入った。男役10年と言われるこの世界。3年目で新人公演主演に抜てきされ、順調にスター街道を進んできた。今回、宝塚の名作ショーとして名高い「ノバ・ボサ・ノバ」で、夢乃聖夏、紅ゆずるら先輩スターとともに、オーロ、マール、メール夫人の3役を交代で演じる。

「(役変わりに)自分が入れたことにびっくり。初めての経験ですし、動揺はありました。覚えることが3倍ですから。同じ場面でも(演じる)2役が出ていると、どっちがどっちか...。切り替えが難しいです」。

個性的な3役だ。「オーロ」は、トップ柚希礼音演じる義賊ソールのライバル盗賊。柚希と令嬢のネックレスを奪い合う相手で、物語の核となる1人。当然、出番も多い。「物売り男マール」は、オーロが恋に落ちたブリーザの婚約者だ。オーロに恋人を誘惑され激高する。「メール夫人」は女役。主人公ソールと、"いい関係"になるエストレーラ嬢の母親だ。

「オーロは大人の魅力がある男性。マールは熱い血が流れてるけど、さわやかな風が吹くような、恋にもまっすぐな人。男性2役はきっちり演じ分けないと」。

メール夫人は、自身初となる本格的な女役だ。

「一場面だけとか、男役で女性の格好はあったんですけど、しっかり通して女役をするのは初めてです」。

当初、武器である長身に不安があった。もっとも夢乃は172センチ、紅も173センチ。先輩たちの姿に見とれ、不安が吹き飛んだ。

「なんといっても、1公演で3人分の経験ができる。すごいことですよね」。

プレッシャーを、プラス思考で受け止める。入団3年で新公主演に抜てきされ、がむしゃらに突っ走ってきた。が、後に、舞台の怖さを知ることになる。

「頭で考えすぎて、恐怖を自分で作るようになっていました。でも去年、たくさんの経験をさせていただいて、自信が少しずつ...」。

転機は、昨夏の「ロミオとジュリエット」。歌もセリフもなく、ダンスだけで表現する「死」役だった。

「舞台への(精神的な)入り方、存在の仕方など、まだまだなんですけど、すごく自分で楽しめた。今までの舞台とは違ってた。仲間はもちろん、劇場全体の空気感を感じました。お客さまの心も、五感全部で感じることができたんです」。

客観的に出演舞台を見ることができ、気付いたことも多かった。もともと、弟がいる長女で、子どものころから冷静だった。「(客観目線の)気質や冷静さは、昔からあったかも」。加えて、負けず嫌いな性格が向上心に火をつける。

「中学のとき、舞台好きの母に宝塚受験を勧められ、軽い気持ちで受けたら不合格。ちょっと興味がわいてきてたけど、2回目も落ちた。すっごく悔しくて、3回目は必死。(受験資格は)あと2回、チャンスがあったんですけど、自分では『これが最後』と思いこむようにして、必死に練習して、受かりました」。

自身にプレッシャーをかけ、追い込んで、力を発揮するタイプ。舞台人として、天賦の才かもしれない。

「ハハハハッ、そうですね! 私は、やった分だけ自信につながりますから。人よりも、たくさん努力しなきゃって思っています」。3役挑戦で、必然的に"追い込まれた"今公演。伸び盛りのスターは、どれだけまた、大きくなるのだろうか。【村上久美子】

 

◆ノバ・ボサ・ノバ 巨匠・鴨川清作氏が生み出し、71年初演。76年の再演時には文化庁芸術祭優秀賞を受賞、99年にも再々演されている。ブラジルのリオのカーニバルを舞台に、奇妙な人間模様が展開されていく。真風は28日までメール夫人、29日~5月9日までマール、同10~16日までオーロを演じる。2部は芝居「めぐり会いは再び」で、仏劇作家マリヴォーの喜劇「愛と偶然との戯れ」をミュージカル化。同作演出の小柳奈穂子氏は、宝塚大劇場デビュー作。

 

☆真風涼帆(まかぜ・すずほ)7月18日、熊本県生まれ。県立大津高を経て、06年「NEVER SAY GOODBYE」で初舞台。ルックス、手足の長さ、長身と、伝統的な宝塚らしい舞台姿で注目を集め、入団3年目の09年、安蘭けいのサヨナラ公演「My dear New Orleans 愛する我が街」の新人公演で初主演。身長175センチ。愛称「ゆりか」「すずほ」。