映画館のオーナーが30年ぶりにメガホンを取る。新作「Wakka」の撮影は11日から札幌市内、近郊で始まった。50年以上暮らした北海道を舞台に、映画制作に再挑戦する。中島洋監督(71)は「国際映画祭に出せるようなものを作り上げたい」と意気込みを口にした。

学生時代から映像制作に励み、北大では映研に所属した。映像を自主制作し、米ニューヨークなどで個展を開いたこともある。しかし、91年に札幌市内のミニシアターが相次ぎ閉館。「札幌でもう見られなくなってしまうのではないか」という危機感からミニシアターの設立を決意。知人からの出資もあり、92年に日本最小の映画館「シアターキノ」をオープンさせた。

その後は映画館の運営に注力するため、制作活動を休止していた。それでも「制作への情熱はずっと持っていた。残りの人生で何か作品を残したいと思った」と、3年前から制作活動を再開。撮影開始はコロナ禍で1年延期となったが、満を持してクランクインした。

タイトルの「Wakka」はアイヌ語で水を意味する。「水は人類の源でもあり関心があった」。人のいない土地に水道管を立てていく姿を描く。作品は30分の短編映画になる予定で、最大の特徴はセリフがないこと。「映像と音だけで伝えなくてはいけない。難しいと思うが面白いものに仕上げたい」と話した。

キャストにもこだわった。主演には「ダンスを見てピッタリだと感じてお願いした」と、小樽市出身のダンサーで東京オリンピック開閉式で振り付け監督を務めた平原慎太郎さん(40)を抜てき。平原さんも「普段は振付師としての仕事がメインなので、大役をいただいてドキドキしている。映画は初めてなので新たな挑戦と思って頑張りたい」と話す。

夏から始まり、秋、冬、春と1年かけて少しずつ撮影され、来年夏の完成を目指す。中島監督は「これからスタートなので、まだどうなるか分からない。1年後の完成を楽しみにしてほしい」と話した。【小林憲治】

◆中島洋(なかじま・よう)1950年(昭25)3月4日生まれ。神戸市出身。68年に北大に入学し、以降は札幌を拠点に活動。92年に座席数が29の日本最小の映画館「シアターキノ」を設立した。96年に札幌市民文化奨励賞を受賞。