27日(日本時間28日)に米ハリウッドで開催された第94回アカデミー賞授賞式で、主演男優賞を受賞したウィル・スミス(53)が、妻で女優のジェイダ・ピンケット・スミスを侮辱するジョークを口にしたプレゼンテーターのクリス・ロックを平手打ちにした前代未聞のハプニングを受け、同賞を主催する米映画芸術アカデミーは「いかなる暴力も容認しない」とツイートした。

ことの発端は、登壇したロックが「ジェイダ、愛しているよ。『G.I.ジェーン2』を見るのが待ちきれない」と、頭をそり上げたジェイダをネタにしたジョークを飛ばしたことだった。ジェイダは18年に脱毛症を患っていることを公表しており、娘と共に頭髪をそる様子を昨年SNSに投稿するなどしていた。「G.I.ジェーン」(1997年)は主演の女優デミ・ムーアが丸坊主になって女性兵士役を演じたことで話題になった作品だけに、その続編への出演を楽しみだといじられたことに病気に苦しむ様子を近くで見ていたスミスは我慢ならなかったようだ。

複数のメディアによると、突然のハプニングに目の前で起きたことがリアルなのかそうでないのか理解できない会場は一瞬で静まり返り、緊張感が漂っていたという。その後、「ドリームプラン」で主演男優賞を受賞したスミスは受賞スピーチでCM休憩中に俳優デンゼル・ワシントンから「最高の瞬間は、悪魔がやってくるから気をつけろ」と、さとされたことを明かしているが、他にもCM休憩中にタイラー・ペリーやニコール・キッドマンとキース・アーバン夫妻、ブラッドリー・クーパーらがスミスの元に駆け寄り、ハグをするなどして慰めていたことが報じられている。

「尊厳を傷つけられた妻を守ろうとしただけだ」とスミスを擁護する声がある一方、ネットでは暴力行為を行ったスミスはオスカー像を返還すべきだとの声も上がっている。映画芸術アカデミーは、「いかなる形態の暴力も容認できない」とした上で、「今夜、私たちは第94回アカデミー賞の受賞者を祝福します。彼らは世界中の仲間や映画ファンから認められるにふさわしい人たちです」とコメントし、スミスを含む全受賞者を祝福している。

ロサンゼルス市警察もコメントを発表。スミスのロックに対する暴力行為に対して認識はしているが、被害者が被害届を出すことを拒否しており、現時点で捜査することはないとしている。スミスは授賞式後のアフターパーティーでオスカー像を手に踊る姿が目撃されており、その後は気持ちを切り替えて自身の受賞を喜んでいたようだ。

ネットでは無神経なジョークだとロックに対する批判コメントが多くみられる一方、「プロのコメディアンとしてジョークを言うのが仕事」と擁護する声もある。「この業界ではあなたを軽蔑するジョークに対して、笑顔で問題ないようなふりをしなければならない」と述べる同業者もいるほか、女優ミア・ファローも「これはただのジョーク。ジョークはクリス・ロックの仕事」とツイートし、「世界中にテレビ中継されている中で映画スターが誰かに暴力をふるい、その後に受賞して愛について語り、スタンディングオベーションを受けるようなことがあってはいけない」とアーノルド・シュワルツェネッガーの元妻でジャーナリストのマリア・シュライバーもスミスに対する批判的なコメントを投稿している。(ロサンゼルス=千歳香奈子通信員)