第94回米アカデミー賞で国際長編映画賞を獲得した「ドライブ・マイ・カー」の濱口竜介監督(43)が5日、都内の日本記者クラブで会見を開いた。

オスカー獲得を「体験したことがない世界に導いてくれるもの」と評した一方、米国では「自分の尺度が通じない、予算規模が全く違う世界」と製作規模の違いを痛感。それでも「個人的な思いから出発する点は変わらない唯一の方法」と日本で映画を作るあり方を提言した。

世界の映画人と並び立った華やかな舞台の裏で、濱口監督は現実を見た。アート系と言われる小規模作品を見て育ち、作り続けた監督にとって約1億5000万円の製作費は「体験したことのない規模」だ。ただ3週間の滞在で出会った米国の関係者は「そんな予算で作ることが出来るの?」という感覚で話してきた。

一方で、スティーブン・スピルバーグ監督らと話す中で「個人的に映画から受けた喜び、人生で味わった傷を、どう作品に昇華するかを考える点は変わらない。日本で作り、届け続ける唯一の方法」と断言。「僕程度の俳優が行けた。若い俳優は素晴らしい才能を持っている。行く可能性はあると」と語った主演の西島秀俊(50)とともに日本映画界にエールを送った。

ハリウッドからのオファーについて聞かれると、前回「ノマドランド」で作品賞と監督賞を受賞したクロエ・ジャオ監督から「正気でいなさい」と言われたと明かした。「米国の観客は現代日本映画に対する関心はない。でもアジアに目線は向けられている。応える作品が、あるかどうか」。自身にも投げかけるように静かに語った。【村上幸将】

 

<濱口監督と「ドライブ・マイ・カー」アカデミー賞までの道のり>

◆20年10月 濱口監督が、村上春樹氏の同名小説を映画化すると発表

◆21年3月 短編集「偶然と想像」がベルリン映画祭で銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞

◆同7月 カンヌ映画祭で邦画初の脚本賞受賞

◆22年1月 全米批評家協会賞で作品賞、監督賞(『偶然と想像』と2作品)、脚本賞、西島秀俊(50)がアジア人初の主演男優賞と4冠

◆同 米ゴールデングローブ賞で市川崑監督の「鍵」以来、邦画では62年ぶりに非英語映画賞(旧・外国語映画賞)を受賞

◆2月8日 アカデミー賞に、日本映画としては初の作品賞と脚色賞(濱口監督と大江崇允氏)、監督賞、国際長編映画賞(旧外国語映画賞)にノミネート

◆同 濱口監督がベルリン映画祭コンペティション部門の審査員を務める

◆3月11日 第45回日本アカデミー賞で作品、監督、主演男優などで最優秀賞を獲得し8冠。三浦透子(25)も正賞外の新人俳優賞

◆3月27日 アカデミー賞で09年の「おくりびと」(滝田洋二郎監督)以来、邦画では13年ぶりの国際長編映画賞を受賞