中村又五郎(66)長男中村歌昇(33)孫小川綜真君(6)の3代が、東京・国立劇場の歌舞伎鑑賞教室「彦山権現誓助剣(ひこさんごんげんちかいのすけだち)-毛谷村-」(2~21日)に出演する。3人が舞台でそろうのは19年9月の綜真君の初お目見え以来。当時、3ショットを初披露した日刊スポーツが再び3人にインタビューした。
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国立劇場の広い稽古場でのインタビュー。又五郎、歌昇、綜真君の3人にそろって取材するのは3年ぶりだ。祖父と父にならって、綜真君も「よろしくお願いします」と丁寧にあいさつした。3年前は又五郎が綜真君をひざにちょこんと座らせていたのが思い出される。
3人で出演することに又五郎は、喜びというよりこの先を見すえていた。「僕の願いは、舞台に出るということに慣れてくれればと思います。これから先もまた舞台に出ることも多いと思いますので、その心構えを」と話す。
歌昇は「一緒に出させていただけるのはありがたいことです」と感謝し「今回は1日2回公演。彼にとって初めてのことなので、集中力が持つかなと心配しています」と話した。又五郎も「体調面とか本人以上に周りが気をつけてあげなきゃいけない」。公演と公演の間の休憩の仕方、食事の時間など、1回公演以上に気を使うことが多いのだという。
2人の心配をよそに綜真君は「楽しみです! せりふのお稽古をしたり、動きのお稽古をしたりしてます」と元気に言い、舞台で拍手をもらうことには「うれしいです」と笑った。この日も取材に向かう途中の車内でせりふを稽古したのだという。歌昇によると、寝る前にはかならずおさらいをするのだという。
昨年、綜真君は歌舞伎座で「義賢最期」に、中村梅枝の長男大晴君と日替わり出演した。又五郎は「初お目見えの時から比べれば、やることもきちんとやっていました」と成長ぶりを語る。歌昇は「初お目見えの時、稽古では声が出なかったんですが、初日が開いたらちゃんとしゃべってくれた。想像を超えるところが随所にあっておもしろいですね。何事も楽しんでやってくれている」と話している。
芝居の稽古以外にも、日舞、おはやし、唄の稽古をしているという綜真君。好きな稽古は何ですか? と聞くと、「うーん、ないよね~」と答えて周囲を爆笑させた。それでも、できないことがあると悔しくて泣くことも多いそうだ。歌昇は「悔しくて泣いて、それを先生に褒めてもらうことがある」と話した。
取材には、綜真君の弟悠真(はるま)君(3)も一緒に来ており、元気に走り回っていた。又五郎には兄歌六が、歌昇は弟種之助がおり、それぞれが歌舞伎役者として活躍している。祖父や父と同様、綜真君も兄弟一緒に舞台に立つ日も遠くなさそうだ。歌昇は「そうなったらありがたい」と言い、綜真君も「出たいと思う。はる君と一緒に舞台に出るのは楽しいと思う。僕1人で出るとドキドキとする。一緒だと緊張しないかもしれない」と、精いっぱいの言葉で楽しみを表してくれた。
又五郎は子供たちに、歌舞伎役者になることを強制することは一切なかったという。歌昇も「道は作ってあげたいと思いますが、強制するつもりはないです。今回の舞台も歌舞伎だけの勉強ではなく、人として成長できるチャンスだと思います」と話した。
綜真君に大きくなったら何になりたい? と聞くと「スーパーマン!」。又五郎は「じゃあ、スーパーマンに助けてもらおうかな」と笑っていた。【小林千穂】
■吉右衛門さんから教わった又五郎の主人公六助役
又五郎演じる主人公の毛谷村六助は、心優しい剣の達人。歌昇演じる微塵弾正と偶然出会い、親孝行のために剣術試合で勝たせてほしいと言う願いを聞き入れるが、後日、弾正が師匠の敵だと分かる-という物語。綜真君は師匠の孫を演じる。
又五郎が六助を初めて演じたのは90年。昨年亡くなった中村吉右衛門さんに教わった。「吉右衛門のおにいさんの型、役作りに近づけるようにもっていかなければと思います。そして役の性根が一番大事だと思いますので、型を守りながら、違った性根は持たないつもりでいます」と話す。
12年6月に博多座で行われた又五郎襲名披露興行でも演じている。「前回より進歩していたいし、しなくてはならない。これでいいと思うことはない。役者はずっと勉強。到達点はない」と語った。
歌昇は、微塵弾正実ハ京極内匠を又五郎に教わる。一見で悪い役だと分かる赤っ面と呼ばれる敵役と違い、微塵弾正は端正な白塗り。真の悪人だともいえる。歌昇は「赤っ面の敵役はありますが、白塗りの敵役はあまりしたことがなかった。どれだけ憎々しくできるかが後半につながっていく」と話す。7年前の勉強会では六助を演じた経験も、役作りに生かしたいという。
綜真君が演じる一味斎孫弥三松は出番も長く、小道具を使っての演技もある。おんぶ、だっこをされる場面もあり、見どころたっぷりとなっている。
■昨年で100回を迎えた「歌舞伎鑑賞教室」
「歌舞伎鑑賞教室」は67年に国立劇場で始まり、昨年で100回を迎えた。分かりやすく、楽しく歌舞伎に触れてもらうため、歌舞伎俳優による解説と、名作上演という構成になっている。毎年6、7月に開催され、中高生ら若い世代の観客が多い。
若い世代向けといっても、物語を改編したり、せりふを変えたりすることはない。又五郎も「ちゃんとしたものをいかにお見せするかが大事」と言う。「歌舞伎に触れていただく機会になればいい。話の内容が分からなくても、少しでもおもしろいなと思うところがあったり、大きくなった時に行ったなあと思ってくれるとうれしい」と話している。
又五郎は、昨年の第100回の鑑賞教室「義経千本桜 河連法眼館」にも出演した。「これまで『高校の時に鑑賞教室に行きました』と声を掛けてくれる方もいました。何を見たかは覚えていなくても(笑い)、心に残るものが1つでもあれば」。
公演中の一部に夜開演の「社会人のための鑑賞教室」もある。今月は10日と17日が午後6時半開演。
◆中村又五郎(なかむら・またごろう)1956年(昭31)4月26日、東京生まれ。屋号は播磨屋。4代目中村歌六の次男。64年7月の歌舞伎座で初舞台。81年6月歌舞伎座「船弁慶」の静御前、平知盛の霊ほかで3代目中村歌昇襲名。11年9月新橋演舞場「菅原伝授手習鑑 寺子屋」の武部源蔵などで3代目又五郎襲名。
◆中村歌昇(なかむら・かしょう)1989年(平元)5月6日、東京生まれ。屋号は播磨屋。94年6月歌舞伎座で種太郎を名乗り初舞台、11年9月新橋演舞場「菅原伝授手習鑑 車引」の杉王丸ほかで4代目歌昇襲名。15年に名題昇進。
◆小川綜真(おがわ・そうま)2016年(平28)2月26日生まれ。19年9月の歌舞伎座「伊賀越道中双六 沼津」で初お目見え。21年8月歌舞伎座の「義賢最期」で日替わりで太郎吉。



