映画監督の石井隆(いしい・たかし、本名石井秀紀=いしい・ひでき)さんが、がんのため5月22日午後7時53分に自宅で亡くなっていたことが9日、分かった。75歳だった。関係者によると2、3年前から闘病し、昨夏から入退院を繰り返していたという。

石井さんは元々、劇画家だった。一躍、人気作家の仲間入りを果たした77年発表の「天使のはらわた」が、翌78年に日活ロマンポルノの1作として映画化され、シリーズ化された。その2作目の映画化作品となった79年「-赤い教室」では、脚本家としてもデビューしており以後、自身の監督作の多くで脚本を手掛けている。15年の監督作「GONIN サーガ」も監督、脚本を担当し、近年も新しいシナリオ、映画の企画なども進めていたが、直近は体調を崩し、難しい状況だったという。

「GONIN サーガ」は、石井さんの“盟友”と言われ、8本の映画を共に作り、16年に69歳で亡くなった根津甚八さんの遺作となった。根津さんは、体調を崩して10年に俳優を引退しながら、同作で1度限りのスクリーン復帰を果たし、そのことが公開当時、話題となった。

石井さんは、引退していた根津さんの自宅を訪問するなど、熱烈にオファーして俳優引退を翻意させた。15年8月7日に都内で行われた「GONIN サーガ」の完成報告会見の席上で、その内情を赤裸々に明かした。

「僕は、根津さんの私生活を一切、知らないんですね。今回、初めてご自宅にお伺いしたんですけど。酒はよく飲みましたけれど、全て現場です。現場で寝ないで寝ないで、頑張って撮った映画を通しての友達なもんですから。その現場で培った言葉で、今回も誘って『やる』と言われた」

根津さんは95年の「GONIN」、その続編の「GONIN サーガ」で、元刑事の氷頭要を演じた。氷頭は「GONIN」で大越組の組長・大越康正(永島敏行)を射殺も、殺し屋の京谷一郎(ビートたけし)の凶弾に倒れ、死んだとみられた。その氷頭が「-サーガ」では植物状態で19年間、生き永らえていたことが判明し、病院のベッドで目覚める役どころだった。

「GONIN サーガ」に1作限定で復帰した根津さんだったが、当時は車いすでの生活を余儀なくされていた。石井さんは、脚本を書いていた当時、まだ健康だった根津さんが、やりとりしていく中で体調の悪化を口にするのを聞き、その一因は自分にあったと責任を感じていたことを吐露した。

「ずいぶん前に(『GONIN サーガ』の)ストーリーはできていて。根津さんは、まだ健康な体だった。氷頭は車いすに乗っていて、まだ生きていた、という設定で書いていたんですけど、その後、根津さんは体を壊して。電話とメールでやりとりしていて『今、ちょっと腰が…目の辺りが…とか、声が…』とか(言っていた)。僕にとって根津さんは、ずっとご一緒していたものですから、僕にも何か、病魔が襲ってくる原因を作ったような…。(過去、撮影現場では)何度もテストしたり、エスカレーターを駆け上っては『石井組は、いつも、これだよ』と腰をさすったり、走っては『しんどいな、石井組は』と言って。真面目な方なので、どんなに苦しくても真面目に必死にやった、その、たまったものが、今の病気になっているのかと思うと、ちょっとつらいところがあった」

石井さんは「GONIN サーガ」の撮影の際、氷頭の設定同様、車いす生活を強いられていた根津さんに、容赦ない演出を行った。地面に、はいつくばったシーンでは「目、撮ってるよ!! お芝居して!!」と厳しく要求し、追い込んだという。そのことを明かした上で、根津さんへ謝罪の言葉を口にした。

「現場に入ったら、病気の根津さんじゃなくて、根津甚八として『もっと目を!!』と言ってしまった…目が悪いのに。すみませんでした。(自分は)業が深いですね。元気な時から声をかけていたもんだから、だんだん、そういう形(体調が悪化して車いすでの生活)になって申し訳なかった」

根津さんは、取材陣に配られた作品資料にコメントを寄せていた。その中で、1作限定で俳優に復帰した理由は、石井さんへの絶対的な信頼があったからこそだったと強調していた。

「最後に…石井監督でなければ、この仕事は受けなかった。自分を理解して、役者としての自分を最大限に生かしてくれると無条件で信頼できる人。天が再び機会を与えてくれるものなら、仕事を続けたかった思いも、もちろんある。でも、監督や共演者を始め、スタッフ全員の支えがあって、やり遂げたことで、未練を捨てて、終止符を打てたと思うし、そう思える機会を与えてくれた方々に深く感謝している」

取材した当時、石井さんが檀上で口にした言葉は、根津さんへのざんげに聞こえた。一方で、根津さんのコメントを読み、不自由になった身をカメラの前でさらけ出せたのは、映画を通じて結ばれ、醸成された石井さんとの映画人としての友情、絆だとも思えた。あれから、6年と10カ月…根津さんが亡くなってから5年5カ月あまりがたち、根津さんとの友情の結晶たる「GONIN サーガ」が、石井さんにとっても遺作となってしまった。

13年「フィギュアなあなた」で佐々木心音、「甘い鞭」では壇蜜を主演に起用するなど、近年も話題作、問題作を世に送り出していた。「GONIN サーガ」に出演した柄本佑、安藤政信ら作品に憧れ、出演を夢見る中堅、若手俳優も少なくなかった。新作を遺すことがかなわず「GONIN サーガ」が遺作になってしまうとは、石井さん自身が思っていなかったのではないか? 失われたものは、あまりに大きい。【村上幸将】