第44回ぴあフィルムフェスティバルの「PFFアワード2022」表彰式が22日、都内で開催され、河野宏紀(こうの・ひろき)監督(26)の「J005311」がグランプリに輝いた。

同アワードは石井岳龍監督(65)、黒沢清監督(67)、李相日監督(48)ら、170名以上のプロ映画監督を輩出するなど、映画監督への登竜門とも呼ばれている。今年は520本の応募から16作品が入選し、グランプリなどの各賞が発表された。

グランプリの「J005311」は、気が合わない2人の男の運命を描いたストーリー。河野監督の親友である野村一瑛と、監督自身が出演し、2人の重苦しい会話が93分にわたって描かれる。

壇上に上がった河野監督は、表情を崩さないまま「あるニュースで見たんですけど」と切り出し、タイトルに込めた意味を明かした。「宇宙にはすでに死んでいる星が2つあって、その2つの星がものすごい奇跡の確率で衝突したら、再び光り始めた星がある。その名前が『J005311』なんですけど、それを人に当てはめようと思った」。

共演した野村とは、8年前に出会った当初から、ともに映画を作ろうと構想していた。「この作品は、どん底の自分たちを救いたかったという思いがあった」。目の奥に涙をたたえながら、1つ1つの言葉に実感を込めた。

野村もステージに立ち、「河野は僕が生きてきた人生で、いちばん救ってくれた人。人の強さがこの映画には表現されていると感じます」と話した。2人は視線を合わせながら、静かに喜びをかみしめた。

最終審査員を務めた三島有紀子映画監督(53)は、同作を最も高く評価した。「グランプリを決める場で、私が一生懸命に理由を話していたら、満場一致だったんですね。人間に絶対に寄り添うという覚悟がある作品だった」と、声を震わせた。「この作品にグランプリをとってもらうために、審査員に呼んでいただいたとさえ思った」と賛辞を惜しまなかった。

最終審査員として、映画監督菊地健雄(44)、浪曲師・曲師の玉川奈々福、女優とよた真帆(55)、俳優光石研(60)も登壇した。

準グランプリと観客賞には、峰尾宝・高橋直広監督の「スケアリーフレンド」が選ばれ、ダブル受賞を果たした。そのほか、審査員特別賞に南香好監督の「幽霊がいる家」、鈴木竜也監督のアニメ映画「MAHOROBA」、宇治田峻監督の「the Memory Lane」がノミネート。エンタテイメント賞(ホリプロ賞)に中里有希監督の「水槽」、映画ファン賞(ぴあニスト賞)に金子優太監督の「瀉血(しゃけつ)」が、それぞれ選出された。

グランプリ受賞作は、今月25日に国立映画アーカイブで上映されるほか、10月24日から開催される「第35回東京国際映画祭」でも特別上映される予定。