映画「夜、鳥たちが啼く」で主演を務めた山田裕貴(32)と、同作を手がけた城定秀夫監督(47)がこのほど、対談を行った。撮影現場ではそこまで深く話し合わなかったという2人が、改めてお互いの印象、作品への思いを口にした。

ドラマに映画に引っ張りだこな人気俳優の山田と、ビデオ専用映画・ピンク映画界のトップランナーにして、「アルプススタンドのはしの方」「女子高生に殺されたい」などで評価の高い気鋭の城定監督が初タッグを組んだ同作。「今できる最強ができた」と言い切るほど山田は自信作となり、城定監督も「自分の中で、何かが変わった」と感じるほど印象深いものとなったという。全4回に分けて、対談を届ける。【佐藤成】

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-作品に入る前の互いの印象はどうだったのか

山田 監督の経歴を調べさせていただいて、何かものすごいタイトルの作品やっているなって思って(笑い)。(撮影に)入る前にちょっとお話しさせてもらったときがあって、台本のお話を。ここはどうなんですかね、ああですかねって。ちょびっとだけ。なんかそのときに「たぶんこれはやってみた方が早いな」っていう。何か話し合ってどうこうというよりも、たぶん僕が(劇)中で生きてるものを撮っていくと思って、言葉を交わしてどうこういうよりもその現場に行ってとりあえずやってみてからだなっていうのは思いました。

城定監督 初めて会ったときに、今(山田が)言ったように本について話し合うというような形で会ったんですけど、『特に言うことはありません』みたいな、そう言ってくれたんで、ありがたかったというか。僕も分からないことだらけなんで、その辺はちょっとやりながらいけたらなっていうところの思いがあった。最終的にどうしてもそうせざるを得ないけど、事前にすごく深い話をしたときに、そこで僕の解釈と山田さんの解釈がぶつかったりすることって結構起こっちゃうと煩わしいので、そこはちょっとあんまり言葉は交わさなかったですけど、一緒に作っていきましょうみたいな感じになったのはすごくよかったですね。山田さんは(映画)『闇金ドックス』の印象が強くて。あの作品はぼくも1回監督のオファーが来たことがあって、よくみていたので、怖いイメージが結構あって。で、初めて会ったときにちょうどやっていたのがNHKの「ここは今から倫理です。」で、なんとも言えない役じゃないですか。ちょっと言葉で説明できない役を演じられていて、深みのある、味わいのある役者さんだなって思っていましたね。そういう怖さみたいなものは(劇中)前半割と出てくるので、そういうところは結構いいかなとか思っていました。

 

-撮影に入ってみて印象は変わったのか。

山田 始まってからもそこまで多く話したりすることはなかったですよね。

城定監督 (相手役の)松本(まりか)さんはその辺を、やっぱり言葉でっていうよりか、やっぱり作っていきたいみたいなのもあったので、段取りをとにかく入念にやりたい、できればそうしてほしいみたいなことだったので、そういうやり方を今回はとった。あんまり言葉というよりか、どんどんしっくりくるまでみんなでやっていくことが多かった。段取りっていうのはカメラの動かし方とかカット割りとかを決めるためにそのシーンを軽く通してやるみたいな、ドラリハーサルみたいなもので、あんまり入念にやるんじゃないんですけど、そこをしっかりやって、撮るときは段々僕の中でもみていくうちのカットが減っていって、終わっちゃうともったいないなみたいな感じに出来上がっていきましたね。

山田 今知ることの方が多いですよね。その時の思いというか。そういうふうにいっぱい話してどうこうじゃなかったので。

 

-そのようなやり方が山田にはぴったりはまったという。

山田 これは本当に監督によると思うし、作品によると思うんですけど、「ここでもうちょっとこうしてほしいな」とか「こうやってこう見えたらいいな」って(監督から)言われていくと、どんどん僕は良くなくなってしまうんですよ。自由がそがれていくというか。僕は自由であるお芝居が一番得意で、どこにでも動いてもいいよとか。何か制限をかけられて「おり」に入れられると、こっから出ちゃダメなんだってちょっとどんどんお芝居を引き気味にしちゃうのですが、監督は、ものすごく段取りで試させてくれたんですよ、いろんなことを。だから本当に段取りとかリハーサルやって何かその中で気づくこととかもあったりして。「あ、こう思った今」みたいな。何か本番でも「あれ、さっきこう思った」みたいな。例えば「終わらせたいから」っていうセリフの中に「こんな気持ちもあったんだ」みたいな。「終わらせたい」にもしかしたら死にたいとすら思っているんじゃないかという終わらせたいもあるし、「今自分が書いているものを終わらせたい」もあるし、何かいろんな要素がその自由にやらせてもらうことによって出てきて、台本読んでいたときと比べものにならないぐらいいろんなことを思うことができて、ものすごくうれしかったですし、やりやすかったですし、もう1回ご一緒にやりたいって純粋に思っています。僕めったに言わないですけど。僕そんなにいろんな監督さん知ってるわけでもないですけど、もう1回やりたいなって思いました。

城定監督 僕もそうなんですね。やっぱりどうしてもあの細かい注文って必要になってくるんで、「このセリフこういう風にセリフ直して」っていうとなんかそこばっかりこっちも気になって、向こうも何か確かにちょっと段々よくなくなるなっていう経験もあるんで、なるべくはもう役者に任せてっていうのがありますね。それに合わせてやるスタイルが自然と出来上がってったっていうか。そっからしか生まれなかったシーンがありましたよね。

 

-具体的にその撮影手法から生まれたシーンは?

城定監督 最後の「だるまさんが転んだ」の、警官たちをあおるシーン。あれってなんかどうやって生まれたか覚えてます? 台本にないんですよ。立ち去るときに危ないからいこうっていうので、行く理由の行動の動機づけみたいな感じで1回やらせた記憶があるんですけど…。

山田 たぶん、リハで、「アキラ、もう1回言って」って言ったんですよね。それは僕に制限がなかったから、ここでカットですよってなったら、僕カットですよって言われてもお芝居続けるタイプなんですけど、リハで「アキラもう1回言って」って言ったら「だるまさんが転んだ」っていって、それがすごく良くて裕子(松本の役名)もめっちゃ笑ってたし、もはやまりかさんとして笑っていて、その空気感がすごく自然でいいなって思って。

城定監督 そうですね、あれで何回かやってるうちに、そういうのが出てきて、いいですねみたいな。じゃあちょっと向こうもちょっと止まってくださいみたいなことで何か調整してって最終的にああなったような気がします。本当机の上だけではちょっと難しい。感情を説明してくれとか言ってもなかなか難しい。

山田 一番向こう側との対比というか、追い詰められてる人、こっちではすごく和やかで幸せがパンってはじけたシーンだったから、自然と「アキラもう1回言え」って。それが慎一なんだろうなって思うし。

城定監督 もう本当に最後の方だったんで、関係性が出来上がりかかっている時だったのでね。やっぱり完成品をそんなに作っていないというか、やっていくうちにいろいろ発見っていうのはある。それもこう撮るって決めていたら、それを逃してしまうことがある。それはもう作品によりけりですし、役者さんのタイプにもよると思いますね。

山田 ぼくはそこにマッチしていたということですね。

城定監督 それでもじゃあそれをワンカット撮ろうってってなったときにいろいろ制限は出てくるんですよ。「なるべく自然にこっちに顔を向けられますか?」とか。

山田 それは全然気にならないですね。もう気持ちができているから。

城定監督 そういうのもちゃんと完璧にやってくれた上で自然に動いてくれるっていうのは、本当にすごいですし、すごくありがたいですよね。(2回目に続く)