劇団民藝代表で、女優奈良岡朋子(ならおか・ともこ)さん(本名同じ)が23日午後10時50分、肺炎のため東京都内の病院で亡くなったことを29日、同劇団が発表した。93歳。最高視聴率62・9%を記録したNHK連続テレビ小説「おしん」(83年)など、ナレーションの名手としても知られた。

葬儀は近親者のみで26日に執り行った。喪主はめいで、劇団民藝演出家の丹野郁弓(たんの・いくみ)さん。故人の遺志によりお別れの会などは行わないという。

奈良岡さんは日展参与を務めた洋画家奈良岡正夫氏を父に持ち、女子美術専門学校(現・女子美大)在学中の1948年(昭23)に劇団民藝に入団。大滝秀治さんとともに補欠で合格し、創立メンバー宇野重吉さんや、文学座の杉村春子さんらの薫陶を受けた。

同期の合格者は47人いたが、20年後には大滝さんと奈良岡さんだけになっていた。互いに「才能がない2人には続けることが唯一の才能。やめることは許されない」と約束し、守ってきた。滝沢修代表の死後、00年(平12)に大滝さんと共同代表に就任。大滝さん亡き後も代表として民藝をけん引してきた。

TBS石井ふく子氏プロデュースの「ありがとう」(70年)や、橋田寿賀子さん脚本のTBS「女たちの忠臣蔵」(79年)など、大ヒットドラマに数多く出演。「花の生涯」(63年)など5本の大河ドラマのほか、朝ドラ「水色の時」(75年)、「おていちゃん」(78年)の出演でも知られる。

格調高い声はナレーターとしても引っ張りだこで、特に橋田寿賀子作品には欠かせない存在として活躍した。大河「いのち」(86年)、「春日局」(89年)、朝ドラ「おしん」(83年)、「おんなは度胸」(92年)、「春よ、来い」(94年)の橋田作品のほか、08年に大ヒットした大河「篤姫」のナレーションも担当している。

舞台では、民藝の公演のほか、「放浪記」では森光子さん演じる林芙美子のライバル、日夏京子役でも活躍。80歳を超えても精力的に舞台に立ち続け、16年には岡本健一との二人芝居「二人だけの芝居-クレアとフェリース-」も話題になった。新型コロナの感染拡大により、20年には民藝の朗読劇「想い出のチェーホフ」が公演中止となっていた。22年公開の映画「土を喰らう十二ヵ月」(中江裕司監督)では、主人公の義母役で出演していた。最後の舞台は、昨年2月に岡本と共演した朗読劇「ラヴ・レターズ」だった。

奈良岡さんを悼んで、22年に制作された約10分間のドキュメンタリー「ある女優・奈良岡朋子」を劇団民藝YouTubeチャンネルで、4月5日まで公開する。

 

◆奈良岡朋子(ならおか・ともこ)1929年(昭4)12月1日、東京都生まれ。48年に民衆芸術劇場の研究生に。主な舞台に「奇蹟の人」「ドライビング・ミス・デイジー」「八月の鯨」など。「釣りバカ日誌」など大ヒット映画にも数多く出演し、「おしん」など名ナレーターとしても活躍。ジャンヌ・モローやキャサリン・ヘプバーンの吹き替えでも知られた。主な受賞に紀伊国屋演劇賞、毎日芸術賞、芸術祭大賞など。