福士蒼汰(29)と松本まりか(38)が、映画「湖の女たち」(11月公開)でダブル主演し、初共演することが9日、分かった。

13年にモスクワ映画祭で審査員特別賞を受賞した「さよなら渓谷」同様、作家吉田修一氏の小説を大森立嗣監督が脚本まで手がけ、実写化。福士は、本格的なラブシーンにも初めて挑み「役者人生におけるターニングポイントと呼べる作品となったと自負しています」。松本も「強烈な映画体験は、生涯この身体から離れることはない」と強調した。

福士は、介護施設で100歳の老人が不可解な死を遂げた事件を追う刑事の濱中圭介、松本は取り調べを受ける介護士の豊田佳代を演じた。人工呼吸器の誤作動による事故か、それとも殺人か…。事件が袋小路に入り込むにつれ、2人は恋愛の常識を超えるインモラルで、アブノーマルな肉体関係で結ばれ溺れていく。大森監督ら製作陣は、難しいテーマと役を託すことができる俳優として「一緒に挑戦しましょう」と福士と松本に提案し、ともに快諾。福士は「経験したことのない役柄だったので僕にとって非常に大きな挑戦」と話した。

撮影は昨年10月から2月にかけ、滋賀県の琵琶湖周辺を中心に行われた。松本は「大森立嗣という人は私を見つめ、肯定し続けました。自由であることに戸惑い、静かに壊れてゆくに至ってガードが崩れ本質に一瞬、出会うことができた。自分と役を隔てるものはなかった」と監督に感謝。福士も「役者がすべきことは場の空気に身を置き、感じるがままを表現することだと改めて気付かされた。僕を原点に引き戻してくださった」と続いた。

劇中では、美しさと醜さが混在したラブシーンが幾度も表現される。福士は「わかりやすさや意味を求められることが多い昨今ですが、人間の奥底でうずく何かを感じていただきたい」と訴えた。

今回公開された初のビジュアルは、本編撮影の中盤で撮られた1枚で、禁忌と無垢(むく)の間で揺れ動き、そして抗い合う2人の姿を収めている。

福士、松本、大森監督と吉田氏のコメント全文は、次の通り。

福士蒼汰 圭介は今まで経験したことのない役柄だったので、僕にとって非常に大きな挑戦であり、役者人生におけるターニングポイントと呼べる作品となったと自負しています。原作や台本を読み込み、撮影に向けて準備を整えて臨みましたが、役者がすべきことは“その場の空気に身を置く”こと、思考を取っ払って感じるがままを表現することだと、改めて気付かされた現場でした。大森監督が僕を原点に引き戻してくださったのだと感じています。“わかりやすさ”や“意味”を求められることが多い昨今ですが、この作品では、人間の奥底でうずく何かを感じていただきたいです。言葉だけでは説明がつかない人間という生き物を、湖の絶景とともに受け止めていただけたらと思います。

松本まりか 大森立嗣という人はただひたすらに私を見つめ続けました。何も語らず肯定し続けました。私は認められ解き放たれ自由であることに戸惑いました。芝居は俳優はこうあるべきとか、誰かが決めてくれた常識をうのみして従い縛られ生きることに安心感を覚えていること…なんならその不自由さを求めてすらいることに気がつきました。自分は何者なのか、何がしたいのか、何がしたくてここまできたのか、自分の中に何があるのか、何もない、持たない、結局何者でもないことを突き付けられ、焦り、限界を知り、静かに壊れてゆきました。そこに至って私はようやく、自分を守る、偽るガードが崩れ、その隙から本当に美しいもの、その本質に一瞬、出会うことができたのです。それは私であり佳代であり、自分と役を隔てるものはなかったように思います。ラストシーン。彩りを帯びてゆく空と湖、逆光の大森組が三位一体になった夜明け。あんなにも美しい景色を見たのは初めてでした。どうしようもなく此処で生きたいと思ってしまった。「誰かを信じ切る」という監督の揺るぎない覚悟とともに、あの強烈な映画体験は、生涯この身体から離れることはないでしょう。

大森立嗣監督 吉田修一さんの「湖の女たち」と言う小説を読みました。この世のケガレと生の輝きが渦巻くようなものすごい小説でした。沸々とした気持ちを抑えられず、大きな挑戦でしたが映画にしたいと熱望し、なんとか完成までこぎつけました。福士蒼汰と松本まりかが主演です。2人は本当に素晴らしい演技をしています。今は心に響く映画になったのではないかと思っていますが、どのように伝わるか緊張の中にいます。どうか皆さまに届きますように。

吉田修一氏 海は眺めるものだが、湖はこちらを見つめてくる。本作を観終わって尚、ざわざわと落ち着かぬ心にそんな言葉が浮かんでくる。映画を見ていたつもりが、気がつけばずっとその映画に見られていたような感覚だった。劇中、不毛でアブノーマルな性愛に溺れていく男女を演じる福士蒼汰さんと松本まりかさんからも、その何かを問いかけるようなすごみが強く伝わってくる。二人が重ね合わせるのは体ではなく、互いの弱さである。互いが日常生活で抱えている服従心である。では人はどのようなときに服従を選択するか。自由を奪われたときである。では自由とは何か。それは恐怖心がないということだ。とすれば、服従心というのは、恐怖心への対抗策であり、自由を希求する心であるとも言える。暗い湖に落ちていくような二人の姿に、そんな根源的なことまで考えさせられた。本作で描かれるのはグロテスクな事件であり、目を背けたくなるような人間の弱さである。しかしその人間の弱さこそが、物語を生み、歴史となっていくことを大森立嗣監督は伝えてくる。そしてそれでも尚、ほんの少しの勇気によって世界が変わることを、あの涙が出るほど美しい湖の風景を通して観客にそっと教えてくれる。

◆「湖の女たち」琵琶湖近くの介護施設で100歳の老人が不可解な死を遂げた。老人を延命させていた人工呼吸器の誤作動による事故か、それとも何者かによる殺人か。謎を追う濱中圭介(福士)ら刑事たちと、介護士の女・豊田佳代(松本)そして過去の事件を探る記者の行方は、深淵(しんえん)なる湖に沈んだ恐るべき記憶にのみ込まれていく。