iPhoneで映画を撮影するケースは、これまでもあった。それにしても、ここまでのクオリティーとは!? と驚かされたのが、6日に都内で行われたプレス向けプレミア試写会で取材陣にお披露目された20分の短編「ミッドナイト」だ。

Appleが展開するiPhoneのみを使って写真や映画を撮影する企画「Shot on iPhone」の一環で、三池崇史監督(63)がiPhone15Proのみを使って撮影。漫画家の手塚治虫さんが、1986年(昭61)5月から87年9月まで「週刊少年チャンピオン」(秋田書店)で連載した、週刊漫画誌での最後の連載作品「ミッドナイト」を実写化した。キーになる人物から人物へと、フォーカスを自動で切り替えるシネマティックモード、離れた場所からでもクローズアップできる5倍ズームなど、iPhone15Proの機能を駆使した映像は、普通の劇映画と驚くほど遜色がなかった。

何より、通常の映画の撮影機材では難しかったり、何らかの工夫なり追加の作業が必要な撮影を、スムーズに行うことができているのは明らかだった。例えば、主演の賀来賢人(34)が演じる深夜の街を走るタクシードライバー“ミッドナイト”こと三戸真也が、運転席でアクセルを踏み込むところを足元からのアングルで撮るなど、通常の大きなカメラでは難しい。

賀来は「本当にiPhoneのサイズしか出せない入り方。アクセルを踏み込む横に入る、入り方…画期的」と驚きつつ「より、パーソナルなところを撮れるのが強み」と語った。また、三池監督作品の多くで撮影を務める、北信康氏は「アクセルの足元にカメラを置く時は、従来だったら車体を切って穴を空ける。(iPhoneだと)入ることができないところに入ることができる。タクシーの中という設定なので、主役の前に入る時、普通のカメラだとなかなか入ることができない距離感、正面に入っていけるのは利点」と、iPhoneで撮影した意義を強調した。

もう1つ、印象的だったのは、ミッドナイトが出会った若い女性トラックドライバー・カエデを演じた、加藤小夏(24)が走るシーンだ。加藤が走る横を並走して撮影しているカメラが、加藤の左横から正面に回り、真正面から加藤の顔を映す。車やバイクなどで並走して撮影するのとは違い、スタッフが走りながら手持ちカメラで撮っているからこそできる芸当だろうが、手ぶれがない。

iPhoneのアクションモードでなければ、なせない業だろう。北氏は「これは、すごいシステム。(カメラを固定する)スタビライザーを使い、通常は移動車を並走するということ(撮影)なんですけど、アクションモードを使うことによって本来、横位置の並走が、芝居によってカメラが(走る俳優の)前に回っていける」と説明。「レールとか移動車を引いちゃうと、そのコースしか(撮影が)できないけれど、iPhoneを手持ちにすることで、芝居の良いところで前に回っていける、芝居にアジャストできるのはいい」と絶賛した。

演じた加藤も「走っているシーンが印象的」と力を込めた。「いつも(通常の撮影)は車と一緒に走る。今回はカメラマンさんが全力で走って…あんなに手ぶれせず、こんなことができるんだと驚きました。見入ってしまった。撮影したのに、これ、iPhoneなんだと驚きがあった」と演じる役者としても画期的な撮影に驚かされたと吐露した。

攻めた撮影、これまでにない挑戦ができるから俳優も燃える。小澤征悦(49)は劇中で、死んだ父の跡を継ぎカササギ運輸を次いだ、加藤演じる女性トラックドライバー・カエデに嫌がらせを続ける、悪徳運送会社の殺し屋を演じた。殺し屋ながら、手に着けた熊のぬいぐるみ腹話術のように会話しながら、ぬいぐるみの口から銃を発射する、怖くもコミカルな役どころだが、そうした設定は原作にはない。「三池さんから、台本上は拳銃を持っているとしか書いていないのに『小澤君、これ着けてみて』と。手塚ワールドではなく三池ワールド」という、三池監督らしさ満載の発案を受け止めた。

ラストの壮絶な激闘シーンでは緊張感、緊迫感あふれる中に、コミカルな遊び心満載の芝居を織り込んだ。怪しげなキャラクターに存在感、圧力をあれほど込めながら、それらをヒョイと跳び越すコミカルさ、遊び心を見せる。ギラギラ感、怪しさ、色気をかもしながらコミカルさ、かわいらしさまで同居するという、俳優・小澤征悦、独特の魅力の真骨頂が刻み込まれたシーン、作品だろう。小澤も「殺し屋役なので暗がりが多かった。現場は本当に暗い。本編用とは別に5、6台回す。監督も、どこにいるか分からない。経験したことがないくらいのところで撮影してのクオリティー…iPhoneはすごい」と手応えを口にした。

賀来が「誰でも撮れることが、いよいよ証明された。お子さんがとんでもない作品を撮る時代になるんだろうな、という確信が持てた」と語ったように、一般人が映像を撮ったり、作品を作ることへのハードルが下がったのは事実だろう。三池監督が「機能もそうなんですけど、ドローンにバーッと乗せたり、これだけ、むちゃな撮影をしていて故障0。1台も壊さずお返しできた」という耐久性も、また魅力だ。記者のiPhoneは、少し型が古いが…iPhone15Proを、ちょっと研究してみたい気持ちになっている。

何より「ミッドナイト」のように、プロがiPhoneを使って、さらなる映像表現の限界に、分け入っていくことに興味と、期待感が高まっている。関心を持って、今後も見続けていきたい。

まだ見ていないという人は、Apple Japanの公式YouTubeチャンネルで配信されているので、チェックして欲しい。百聞は一見にしかず…この言葉が、最も似合う19分20秒…見て、損はない。【村上幸将】