山田洋次監督(94)と、興行収入(興収)166億5000万円と歴史的ヒットを続ける「国宝」の李相日監督(51)が30日、都内で開催中の東京国際映画祭で対談した。その中で、山田監督の02年「たそがれ清兵衛」で主人公の敵・余吾善右衛門役で映画デビューし、「国宝」でも人間国宝の女形・小野川万菊を演じた、田中泯(80)に話が及んだ。

山田監督は「(キャスティングに)苦労して…あの顔はいいなと思った。声もバリトンで、とても良い声。舞踏家だから、体も動く…行けると思ったら、芝居が、これがヘタクソでヘタクソで、どうしようもない」と言い、会場を笑わせた。「何日も何日もリハーサルして、ひと言ひと言、植え付けるようにして作った」と撮影当時を振り返った上で「それ以後、彼がテレビや映画で、あちこちで活躍するようになって時々、僕も見ているけども全然、進歩しないのね」と笑った。

さらに「ついこの間、会った時『あなたは見事に、あなたは20年前の芝居をしてるね』と言ったけど…それが、あの人の値打ちね」と評した。李監督から「そう言う人は、世界で山田監督しかいない。ヘタクソだと言うのは、どうヘタクソななんですか?」と聞かれると、山田監督は「つまり、棒読み…あるいは、安っぽい言い流しみたいな芝居、するのね」と答えた。その上で「ちょうど20年もやってくるとね、笠智衆になっちゃうんだよ」と、小津安二郎監督の53年「東京物語」などに主演し、山田監督の代表作「男はつらいよ」シリーズでも御前様を演じた、笠智衆さんの名を挙げた。「そろそろ、あなたに笠智衆の冠をあげてもいいんじゃないかと、泯さんに言ったのね」とも明かした。

山田監督は、笠さんについても語った。

「笠さんも本当に若い時から一生懸命、真面目な人で芝居の稽古するんだけど、全く上達しない人で。そういう人柄を、小津安二郎は評価したんじゃないかな? 最後までヘタクソな人だったけど…笠さんのような役者は、笠さんしかいない。大事なのは芝居じゃなくて、そこにいるだけでいい、存在そのものなんですと言いたくなる」

山田監督は「それに近づける人が、田中泯。そこにいるだけでいい」と田中を評した。

李監督は、山田監督から「よくキャスティングしたね。最初から、あの役は、と思っていた?」と聞かれると「スターとは対極の存在。ヘタクソだとは思っていなかったですけど、おっしゃるように存在感と、独特の肉体の動き方をされる。組み合わさった時、あの魔力のような存在感を出す」と答えた。

田中が国宝で演じた小野川万菊は、主演の吉沢亮(31)が演じた、任侠(にんきょう)の家に生まれながら抗争で父を亡くし、渡辺謙(66)が演じた上方歌舞伎の名門の当主・花井半二郎に引き取られた立花喜久雄を見つめ続ける。李監督が「喜久男の舞いを見届けるだけの、まなざしですね。違うシーンを見ていると違うものになる」と万菊を演じた田中の存在感を具体的に示すと、山田監督は「やっぱり専門家なんだよ。舞踏家だから、そういうまなざしになるんだね」と評した。