古典から現代物まで幅広い芸域で知られ、「平成中村座」公演などで歌舞伎の裾野を広げた人気歌舞伎俳優で、テレビドラマなどでも活躍した中村勘三郎(なかむら・かんざぶろう、本名波野哲明=なみの・のりあき)さんが5日午前2時33分、急性呼吸窮迫症候群のため東京都文京区の日本医科大付属病院で死去した。57歳。東京都出身。葬儀・告別式は11日午前11時から東京都文京区の自宅で、近親者のみの密葬として行う。喪主は長男勘九郎(かんくろう)、次男七之助(しちのすけ)。

 6月に食道がんであることを公表。手術を受けた後、肺炎を発症した。来年春に開場する歌舞伎座への出演を目標に療養していたという。7月に長野県で「天日坊」に飛び入り出演したのが最後の舞台となった。

 17代目中村勘三郎の長男として生まれ、5代目勘九郎として3歳で初舞台。2005年に18代目勘三郎を襲名した。

 立ち役、女形とも演技は巧みで、愛嬌(あいきょう)あふれる華やかな存在感で観客を魅了、歌舞伎人気をけん引した。

 当たり役に「髪結新三(かみゆいしんざ)」の新三、「夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)」の団七、「仮名手本忠臣蔵」の勘平など。舞踊に優れ、1989年「鏡獅子(かがみじし)」で芸術祭賞。

 現代に息づく歌舞伎を目指して、94年には東京・渋谷で演出家の串田和美さんと「コクーン歌舞伎」を開始、斬新な演出で古典をアレンジし、新たなファンを開拓した。

 江戸時代の芝居小屋の雰囲気を再現した「平成中村座」は2000年にスタート。東京・浅草や米ニューヨークなど国内外で歌舞伎を披露するなど、さまざまな挑戦を行った。

 99年のNHK大河ドラマ「元禄繚乱(りょうらん)」の大石内蔵助役などでも親しまれ、紅白歌合戦の司会も務めた。同年日本芸術院賞、2008年紫綬褒章。

 祖父は6代目尾上菊五郎。妻好江さんの父は故中村芝翫さん。長男勘九郎、次男七之助も歌舞伎俳優。姉は俳優の波乃久里子。