「夫婦善哉」など映画をはじめ舞台、テレビで幅広く活躍した女優の淡島千景(あわしま・ちかげ)さん(本名・中川慶子=なかがわ・けいこ)が16日午前9時40分、すい臓がんのため東京都目黒区の病院で亡くなった。87歳だった。昨年夏のドラマ収録中にがんと判明したが、本人には告知せずに治療していた。

 昭和を代表する女優がまた亡くなった。昨年夏にTBS系ドラマ「渡る世間は鬼ばかり」(10年10月~11年9月)にレギュラー出演中に体調を崩し、病院で診察を受けた結果、すい臓がんと分かった。自宅前で取材に応じたおいの中川賢也さんは「本人にはがんと知らせなかった。入院せず、仕事を続けた」という。淡島さん最後の出演場面は昨年8月11日に放送された。

 「渡る世間は鬼ばかり」収録後は自宅で療養したが、「渡る世間は鬼ばかり」の石井ふく子プロデューサーに「早く治して。役を作って待っているから」と言われ、その言葉を励みに復帰を目指したが、1月上旬に容体が悪化し入院。体調のいい日と悪い日の波があり「いい日は1日3食食べて、医者も驚いていた」(賢也さん)。しかし、この日朝、容体が急変。親族は最期に間に合わず、世話をしていたお手伝いの女性がみとった。遺体は昼すぎに目黒区内の自宅に戻り、受勲した際に着た水色の着物を着ているという。この日夜、石井プロデューサー、淡路恵子らが弔問に訪れた。

 淡島さんは39年に宝塚音楽舞踊学校に入学。戦中から戦後にかけて娘役トップスターとして人気を博した。故手塚治虫さんの漫画「リボンの騎士」のサファイア王女は、淡島さんのファンだった手塚さんが宝塚時代に数回演じた男役をモデルにしたと言われる。退団後は映画スターとして活躍。「麦秋」「本日休診」「君の名は」に出演し、スピーディーで軽やかな演技で松竹の看板女優となった。

 その後、東宝に転じ「夫婦善哉」ではぐうたらな男を母性的に見つめる女性を演じ、故森繁久弥さんとの名コンビをみせ「喜劇駅前シリーズ」でも共演するなどコメディエンヌとして活躍。知的な美貌で色気を漂わせる女性像も得意とし、「にごりえ」「鰯雲(いわしぐも)」などでシリアス演技にも実力をみせた。晩年も97年「GOING

 WEST

 西へ…」に37年ぶりに映画主演し、出演した映画は約200本に上る。

 ドラマもNHK大河ドラマ第1作「花の生涯」の村山たかや故長谷川一夫さんと共演した「半七捕物帳」などに出演した。連続テレビ小説「春よ、来い」では老境の女性を好演した。59年に森繁さんと2人で「自由劇団」を結成し舞台にも進出。「細雪」をはじめ、09年「おしん」、昨年3月にも舞踊公演に出演するなど、最後まで現役女優だった。

 ◆淡島千景(あわしま・ちかげ)

 本名・中川慶子。1924年(大13)2月24日、東京都生まれ。宝塚歌劇の娘役を経て、松竹に入社、50年「てんやわんや」で映画デビュー、ブルーリボン賞演技賞。55年、森繁久弥さんと共演した「夫婦善哉」では同賞主演女優賞などで高く評価された。森繁さんとは「駅前」シリーズでも共演し、コミカルな演技で魅了した。現代劇から時代劇、コメディーからシリアスな作品まで幅広い演技で活躍した。大河ドラマ第1作「花の生涯」、「半七捕物帳」などドラマにも出演。生涯通じて舞台、映画、ドラマと幅広く出演。56年に菊池寛賞、88年紫綬褒章、95年勲4等宝冠章受章。