<連載「気になリスト」(38)>

 今、注目されている若手女形の中村壱太郎(22)。東京・浅草公会堂で上演中の「新春浅草歌舞伎公演」では「対面」の曽我十郎、「毛谷村」のお園など4作品すべてに出演している。「休む間がないけれど、充実しています。お園は女武者だけれど、かわいらしさを見せられればと思っています」。

 曽祖父は2代目中村鴈治郎、祖父は4代目坂田藤十郎、父は中村翫雀、母は舞踊吾妻流家元の吾妻徳弥という関西の名門「成駒屋」の御曹司。4歳で初舞台を踏んだが、本格的に歌舞伎の道を決めたのは05年の坂田藤十郎襲名公演だった。

 「関西で歌舞伎をやることが多くなり、自分は上方歌舞伎の人間という意識が強くなりました。歌舞伎をやることの大切さも感じました」

 「封印切」の梅川、「曽根崎心中」のお初など大役をみずみずしく演じて若手女形として頭角を現した。一昨年は「連獅子」で芸術祭新人賞を受賞した。

 「みなさんと一緒に芝居を作っていく過程が好きです。大きな役もいただけるようになったけれど、女形は相手役を立てて務めるものなので、出すぎてはいけないと思っています」

 父と同じく慶応に入り、高校では水泳部に所属し、飛び込みの選手だった。

 「競泳、水球、遠泳、飛び込みの4つがあって、何も考えずに選んだのが飛び込みでした。でも、おかげで首が強くなりました。『連獅子』でよく毛が振れるし、女形なので重いかつらをかぶっても大丈夫です」

 以前は漫画をよく読んでいたが、最近は歌舞伎関係の本も読んでいる。

 「地方公演が多いので、家で何も考えずにボーとしているとリラックスできます。家の倉庫には膨大な台本をはじめ、いろいろな資料もある。勉強したい演目が出てきた時、だいたい家に台本があるので、本当に感謝しています」

 ミュージカルも好きでよく見ているという。

 「現代劇にも興味があるし、小劇場の芝居も見ます。現代劇にもいつかは出てみたい」

 今は卒論の締め切り直前。学業との両立から歌舞伎一筋になる今年は飛躍の年となる。【林尚之】

 ◆中村壱太郎(なかむら・かずたろう)1990年(平2)8月3日、東京生まれ。1歳で初お目見えし、95年に大阪中座で初代中村壱太郎を名乗って初舞台。慶大4年に在学中。10年から日本テレビ系バラエティー番組「心ゆさぶれ!先輩ROCK

 YOU」に準レギュラー出演。屋号は成駒屋。(1月9日付

 紙面から)