“8ミリ差V”の真実は-。今月5日のドバイターフで、日本代表ソウルラッシュ(牡7、池江)が絶対王者ロマンチックウォリアー(せん7、C・シャム)との激闘を制した。今回の「ケイバラプソディー」では太田尚樹記者が舞台裏を取材。ムーア騎手のキャンセル、抜き打ちの採血検査によるイレ込み、C・デムーロ騎手の「神騎乗」など、知られざる詳細に迫った。

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劇的大金星どころか、出走すら危うかった。ドバイターフ発走の約1時間前。両目を血走らせたソウルラッシュは何度も立ち上がっていた。その激しさは、引き手を持っていた厩舎スタッフの肩を脱臼させたほど。装鞍直前の待機馬房で課された抜き打ちの採血検査が、JRA最優秀マイラーを極度の興奮状態に陥らせた。このままでは鞍を置けない。「除外を覚悟した」。異変を目にした池江師の胸には絶望がこみ上げた。

ドバイターフを制したソウルラッシュ(中央)。右はロマンチックウォリアー、左はメイショウタバル(撮影・桑原幹久)
ドバイターフを制したソウルラッシュ(中央)。右はロマンチックウォリアー、左はメイショウタバル(撮影・桑原幹久)

1週間前にも予期せぬ事態が起きていた。鞍上に予定していたムーア騎手が、契約を結ぶクールモアの采配により当日にオーストラリアで騎乗することになり、代役探しを余儀なくされた。テン乗りとなるC・デムーロ騎手に最終決定したのは、3月30日の締め切り30分前だったという。

打倒ロマンチックウォリアーへ、レース当日のホテルで10分ほどの作戦会議を開いた。標的の後方2馬身差以内をキープして差す-。トレーナーが伝えた要望は2つだ。(1)「ゲートの出はいいが二の脚がつかないので促していってほしい」(2)「コーナリングがぎこちないのでロマンチックウォリアーから離されないようにしてほしい」。過去のレース映像で予習していたクリスチャンも「分かってます」と同意見だった。

はたして、辛うじて冷静を取り戻したソウルラッシュは、その戦術を完璧に遂行して見せた。導いたのは名手の超絶技巧だ。

「あれはいわゆる神騎乗。直線でムチを右から左へ持ち替えて、ゴール前でもう1度、右ムチにして、左手をグイッと伸ばして(馬の)耳の前まで手が出ている。先に追い出したのに最後まで腰も沈んでいて、持久力もすごい」

王者からも“ライバル視”されていた。向正面でマクドナルド騎手は何度も後方を振り返り、ソウルラッシュの位置を確認している。昨年の安田記念では0秒1差。脅威を感じていたのだろう。そんな香港最強馬に対し、最後で馬体を併せたのも秘策の1つだった。

「接戦に弱いのではないかと。ヒントは(サウジCで競り勝った)フォーエバーヤングがくれた」

海外競馬メディア「アイドルホース」によると、着差は0秒0006=約8ミリだったという。紆余(うよ)曲折と深慮遠謀の末に果たした難敵撃破。1万分の1秒単位の決着には、競馬の神髄が凝縮されていた。

(ニッカンスポーツ・コム/競馬コラム「ケイバ・ラプソディー~楽しい競馬~」)