巨人がリーグ優勝する上で、絶対に欠かせない条件が2年連続沢村賞のエース、菅野智之投手(29)の復調だ。日刊スポーツ評論家の西本聖氏(63)が、好評企画「解体新書」で現状のチェックと改善点を指摘する。

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8勝を挙げながら、防御率は3・97。この数字をどう見るだろうか? 菅野の本来の力量からすれば、調子が悪い中でなんとか勝っているという成績だろう。この連続写真は7月19日広島戦(マツダスタジアム)での投球フォームだが、調子が上がらない原因がはっきりと表れている。

両腕を振りかぶらず、<1>のように左足をプレート後方に下げてから投げるノーワインドアップ。ここから<2>で左足を上げていくのだが、この時点ですでに調子の上がらない原因が始まっている。

軸足(右足)のスパイクの位置から頭の真ん中まで線を引いてみてほしい。地面と垂直にならず、セカンドベース方向に傾いてしまっているのが分かるはず。後ろの軸足に重心を残そうとするから傾いてしまい、真っすぐ立てなくなるのだろう。

体の軸が真っすぐにならない悪影響が、<3>からに出ている。右投手なら、上げた左足が軸足と重なるか、左の膝頭が軸足の外側にクロスするように上がった方がいいが、できていない。最初から体の軸がセカンドベース方向に体が傾いているため、左足を軸足の内側付近に上げないと、バランスが取りにくくなってしまう。

左の膝頭と右の膝頭が上下に重なるように上げられれば、体の重心が真っすぐなままで軽いヒップファーストの形ができるはず。だが、一見、真っすぐに立てているように見えても、よく見ると頭の位置がホーム側に流れ始め、左肩も下がり始めてしまっている。<4>では真っすぐに立っているように見えるが、この時点ではもっと頭の位置がセカンドベース側の後方に残るような形になっているのがベストの形だろう。

一番悪いのは<5>から<6>に移動するときのテークバックの動き。<5>でボールを持つ手を下に落とした後、<6>で上がらずに落としたまま背中側に入るように動いている。右腕が背中側に入りすぎると、<7>のように肘から上がるようになり、腕が振り遅れる原因になる。腕が振り遅れると、体の開きが早くなり、シュート回転したり、すっぽ抜けの球が多くなる原因になる。

悪い流れのまま、<8>では完全に腕が振り遅れる形になってしまっている。下半身と上半身のタイミングが合っていない。右膝の折れるタイミングが早いから、ボールを持つ右手が高い位置に収まる前に投げ始めている。腕の振り遅れを取り戻そうとするために、この時点で必要以上の力みが生じ、リリースでマックスの力が出せなくなる。

投球フォームで一番重要なのが、<9>から<11>までの部分。この連続写真はスライダーかカットボールで、やや左肩の開きが早いかな、という程度で収まっている。しかし、実際の試合で投げているところを見ると、肝心のリリース時にマックスの力が発揮できないためか迫力がない。リリースで加速していくように腕が振れていれば、<11>と<12>のフィニッシュでは、もっと躍動感が出てくるはずだ。

菅野はまだベテランではないが、球界屈指の実力を持っている。このクラスの投手になると、コーチや関係者などが、気軽に投球フォームの改善点を指摘しづらくなる。今季の不調は、オールスター前に腰の痛みを訴えたように、コンディションの悪さからきていると思う。ただ、腰の状態が悪かったから本来の調子を出せなかったのならいいが、メカニック的な部分が悪かったから、腰を悪くした可能性もある。

今季の菅野の登板を見る限り、指摘させてもらった通り抜け球が多く、制球力がいまひとつ。被本塁打が17本で、セ・リーグの投手の中でワーストなのも、制球力の乱れが影響しているのだろう。今後ペナント争いは激しくなるし、クライマックス・シリーズや日本シリーズのような短期決戦になれば、菅野が相手エースに投げ勝たなければいけない。一刻も早く本来のピッチングを取り戻し、力を発揮してもらいたい。