阪神ドラフト1位・西純矢投手(18)のガッツポーズは、世間に注目された。18年夏の甲子園2回戦・下関国際戦。西は初回を3者凡退に抑えた直後、球審に呼び止められた。「必要以上にガッツポーズをしないで。試合のテンポを速くするために、早くプレートに入りなさい」。その後9四死球を出し、9回に逆転を許し敗れた。

ガッツポーズに対して「気持ちがこもっていていい」という声がある一方で「礼儀に欠けている」という声もあった。それは甲子園を去った後も、西の耳に入った。「学校にも賛否両論届きました。『どんな指導してんのか』という内容もあれば、『お父さんにきっと届いています』という肯定的な温かいものもありました」と創志学園硬式野球部の中川隆太部長は、振り返る。野球部宛てだけで20通以上の手紙。メールや学校のSNSも含めれば、100以上が届いた。

「その人の個性だから壊しちゃいけない」「相手への敬意がない」。中川部長は、手元に届いたすべての手紙を西に見せた。そして今後どうしていくか、西自身に考えを委ねた。「いやな思いをされて怒ってる方の手紙も見ました。やっぱり、いろんな人にいいように思ってもらうことが一番だと思ったので、そこでガッツポーズをやめてという風に、自分はなりました」。西は変わることを選んだ。

その年の11月中旬、西はメンタルトレーニングを受けるため東京に向かった。専門家との対話はもちろん、09年WBC決勝戦の韓国戦について語るイチロー氏の映像を見ながら、一流のアスリートの考え方について解説してもらうこともあった。学校で3月まで月に1回、最後の夏の大会直前もトレーニングを受けた。「試合で感情がぶれやすいというか、結構波が激しかった。そこで自然体というか、少しイラッとする時でも抑えられるようになった。そこからすごくパフォーマンスも良くなりました」。

最後の夏の大会。味方のエラーを笑顔で励まし、ぶれない西の姿がマウンドにあった。

きっと誰よりもさまざまな経験をし、さまざまな感情を味わった3年間。成長を続けた3年間でもあった。

1年夏の遠征合宿。西は1年生主体のBチーム遠征に同行した。そこでキャプテンに任命され、道具の準備から洗濯まで裏方の仕事を任された。「キャプテンのしんどさであったり、いろんな人の気持ちを学ぶことが出来ました」。練習中は声がかれるまで声を出し、終わればトラックに乗ってコインランドリーへ。30人分の衣類を洗濯した。3日ほどたった時、西から異臭がただよった。「お前くさくない?」と中川部長が聞くと「自分の洗濯する時間がなくて…」。3日間同じポロシャツを着ていたという。チームのために自然と体が動いていた。

西の座右の銘「一以貫之」。ひとつの思いを変わらずに貫き通すこと-。野球への純粋で一途な思いを貫いて、西はプロのスタートラインに立った。(おわり)