日本ハムからトレードで加入した伏見寅威捕手(35)の阪神デビュー戦は、しびれる展開になった。

開幕2戦目で先発マスクをかぶり、高橋遥人投手(30)とコンビを組んだ。球威、変化球のキレ味、制球とも文句なしだった左腕を丁寧にリードした。

高橋の5年ぶりの完封がかかった9回。リードは2点。連打を浴びて1死一、二塁のピンチを招いた。前日本塁打を打っている4番のボビー・ダルベック内野手(30)はツーシームで三ゴロに打ち取った。

ただ、なおも2死二、三塁。打者は5番の岸田行倫捕手(29)。引き続き、1発だけは避けなければならない。逆に本塁打以外なら長打でも単打でも同点どまりだ。

もちろんこのまま逃げ切りたい。完封ならなおベスト…。そんな状況で、伏見は色気を出さず「現実」を見ていた。サヨナラさえ回避すればまだ勝つチャンスは残る。うまく当てられても同点だ。最悪、延長でも仕方ないと考えていた。

「まずはチームが勝つことなので。同点になっても次の回に点が入るかもしれない。ちょっと先を見ながら。自分の中であそこのチョイスは落ち球(ツーシーム)だったなと」

本塁打のリスクが低いのはこの日の高橋ならツーシームだ。直球2球で追い込んでからはツーシームを連続で要求した。140キロ台前半で鋭く沈む得意球を、左腕は要求通り、間違えることなく低めに投げ込んできた。3球目からの5球のうち4球がツーシーム。岸田もバットを投げ出すように必死についてきた。

両応援団の割れるような大声援が重なり合うクライマックス。最後7球目、低く沈んだ142キロについにバットが空を切った。バッテリーは解放されたようにその場でこぶしを握り、声を上げた。

藤川球児監督(45)もベンチで喜びを表現していた。「高橋と伏見が本当によく頑張ってくれました。相手の岸田選手は非常に左投手に強いのですが、うまくバッテリーでいってくれましたね」とほめたたえた。

伏見はオリックス、日本ハム時代から投手の良さ、強みをうまく引き出すリードを得意としてきた。まさに面目躍如のインサイドワークだった。

「今日は特別な試合だって自分に言い聞かせていて、すごく緊張感のある中で野球ができました。昨日負けていたので、今日は絶対勝つんだと、チームみんながそう向いていた。今日の勝ちは、個人的にも大きいし、チームとしても大きいかなと思っています」

初めてセ・リーグに戦いの場を移したベテランが胸を張った。【柏原誠】