「デイヴィッド・コパフィールド」は英作家チャールズ・ディケンズの代表作であり、あの世界的マジシャンの芸名の由来ともなっている。

「どん底作家の人生に幸あれ!」(1月22日公開)は、自伝的要素の濃いこの作品の7度目の映画化だ。苦難の半生、19世紀半ばの庶民の貧困を描いていることに変わりはないが、むしろ周りの奇人、変人の描写に見どころがある。「スターリンの葬送狂騒曲」(17年)のアーマンド・イヌアッチ監督が仕上げた風刺画のようなキャラクターが楽しい。

監督のこだわりの1つが「多様性」を目指したキャスティングだ。主人公のデイヴィッドからして「スラムドッグ$ミリオネア」(08年)で注目されたインド系のデヴ・パテルである。両親は白人であり、養子でもない。不義の子なのか。そんなこちらの「?」をあざ笑うように、ばりばりアングロサクソンの上流出の親友の母親が黒人だったり…肌の色を超越し、その内面に当てたキャスティングなのだ、としばらくたってようやく得心する。

イヌアッチ演出はこちらの先入観を打ち砕き、キャラクターそれぞれを劇画的にとがらせる。資産家役で東洋系のベネディクト・ウォンが登場し、さもありなんの貫禄と酒好きの一面で笑いを誘う。卑屈に振る舞いながら下克上をもくろむ使用人をベン・ウィショーが嫌らしいほどに好演している。

ディケンズ自身、中流家庭に生まれながら、両親の金銭感覚の緩さから、靴墨工場での過酷な労働など辛酸をなめたという。そんな実生活の浮き沈みを反映して、映画もジェットコースターのように進行する。

監督はディケンズの練り上げた人物造形のはみ出た部分に面白さを感じているようだ。デイヴィットが就職した法律事務所で「きしむ床」と格闘するディテールにこだわったりもする。彼が恋をし、雲でさえ彼女に見える心理描写をそのままファンタジックな映像にしてみせる。「船をひっくり返して作った理想の家」の描写は細密に、ディケンズの夢想を「形」にする。

デイヴィットがロンドンで寄宿する家のミコーバー夫妻は、ディケンズが両親をモデルにしたと言われている。映画でもこの夫妻の描写には特段の「愛」を感じさせる。

BBCのスペシャル番組でディケンズを再考察したこともあるイヌアッチ監督は原作の外形にこだわらず、その内面を彼なりのカラフルな映像に仕上げたわけだ。海外紙の批評の中ではニューヨーク・ポスト紙の「愉快! ディケンズも墓の中で大笑いするだろう」が的を射ている気がした。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)