ホラー、ファンタジー、人間ドラマと多彩な作品を送り出してきた黒沢清監督が、第2次世界大戦前夜の夫婦(蒼井優、高橋一生)を軸に、ミステリーエンターテインメントを作り上げた。

満州で知った国家機密を、正義のために告発しようとする夫と、夫が見せる別の顔に困惑する妻。当初は戸惑っていた妻が覚悟を決め毅然(きぜん)とし、猛然と行動力を発揮する姿、スマートな夫が見せる感情の揺れ…。蒼井と高橋が、静かながら感情を思いっきり振っている。夫婦の躍動感は、2人でなければ出せなかったのでは。

ハラハラドキドキのサスペンス要素あり、戦争の裏側にある闇を探るというミステリー要素もあり、時代を映すファッションや街中の風景など、いろいろな面でエンターテインメント性豊かに仕上がっている。

その中でも、夫婦でも理解できない互いというものも突きつけられた。一緒に暮らしているからといってそれがなんだと考えると、足元がガラガラと崩れていくような恐怖を感じてしまった。

ベネチア映画祭コンペティション部門で監督賞(銀獅子賞)を受賞。【小林千穂】

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