今年、京都の街にイノシシの出没が相次ぎました。

 12月上旬には京都・東山の学校にイノシシ2頭が侵入し校内が一時騒然となりました。5月にはウェスティン都ホテル京都のロビーに、6月には京大の学生寮に。京都だけではなく、最近は市街地を猛進するイノシシが目立ちます。臆病で警戒心が強いとされるのに、なぜ市街地に現れるでしょうか。イノシシ研究歴28年の専門家に聞いてみました。

 観光客に人気の寺などが多くある京都市東部の東山のふもとにある東山中学・高校にイノシシが迷い込んだのは12月4日。校舎の玄関のガラス戸を割るなどして逃げ回り、校内では「大捕物」が繰り広げられました。生徒がスマートフォンで撮影した映像には校舎の1階でゴミ箱をあさるシーンがありました。

 「犬並みの嗅覚があり、弁当の食べ残しなど油の臭いに引き寄せられます」

 イノシシの行動などを研究する西日本農業研究センターの被害対策技術グループ長・江口祐輔さん(48)は相次ぐ市街地出没は「人災」であると話します。

 「山がすみかであるイノシシは冬になりエサがなくなると、死ぬ個体も多くなります。それが自然の摂理です」。ところが少子高齢化が進み、里山に無人の田畑などが増え、生息数が増加したそうです。「放置された農地、果樹園などがあれば、それがイノシシの餌場となります」。さらに餌を求めて行動範囲を広げ、街へ出没するといった構図です。街のなかに放置された生ゴミなどが「餌場」になります。いわば人間が無意識のうちに餌付けしているわけです。

 ただ街には人間もいます。イノシシは警戒心が強いはずなのになぜ? 「臆病で慎重ですが、いったん人に慣れたら大胆不敵になります。学習能力が高いですね」。街に餌があり、そこまで行っても大丈夫と分かると、出没するようになるそうです。

 生徒のスマホの映像には食堂のガラスめがけて何度も突進する様子もありました。猪突(ちょとつ)猛進、そんなイメージがありますが、江口さんは言います。「モノや人間に突進するのは追いつめられてパニックが頂点に達した異常事態での行動です」。攻撃ではなく逃げるためで、人間への突進は「股の下を通って逃げようとしている」そうです。てっきり食堂ですから「ぼたん鍋」の恐怖を感じたのかと…。

 自衛策として生ゴミを放置しないなども考えられます。市街地への出没は人間とイノシシとの付き合い方が問われています。【松浦隆司】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミヘキタヘ」)