定刻よりも5分遅れで、そのライブは始まった。バンドの名前は「DAY GAMES」。漫才コンビ「プラス・マイナス」で人気だった岩橋良昌(45)を含む3人組だ。

大阪市内のライブハウスに集まったファンは約30人。男女比は半々か。ドラム、ギター、ベースというシンプルな編成で、岩橋はベースとボーカルを担当する。ステージに姿を現すや、漫才のときと同様、人懐っこい笑顔を見せた。

メンバー3人は、それぞれ野球のユニホームを着用し、岩橋は「OHTANI」のネームが入った背番号17、エンゼルスのシャツを羽織っていた。ハードロック。なんばグランド花月で大爆笑を取った「あの声」で、オリジナル曲やハイスタンダードのコピーを演奏した。

何曲かの演奏を終えてのMC。「いろいろありましたが、なんとかなりそうです」と、岩橋は現状をファンに報告した。客席の男性ファンから「何かあったの?」と声が飛んだが、もちろん誰もが知っている。

SNSで岩橋が特定の個人を中傷するコメントを連続投稿し、当時の所属事務所を追われることになった一件だ。

それがきっかけで昨年、上方漫才大賞に輝いたプラス・マイナスは解散。大きな勲章を得ながら、岩橋は漫才師でなくなった。

ライブ中でのトークに会場の反応がやや薄かった際には「お笑いをやっているときは(話が)スベるのが怖かった。今はもう、なんとも思わない」と苦笑いを浮かべた。

さらに「人前で演奏できるのはうれしいね。家で(歌や楽器の)練習をするときはいつも一人やから」と、岩橋は久々の舞台に立つ喜びを口にした。

おなかの出っ張った体形、丸っこい顔つきは相変わらず。大きな腹にベースを乗せて演奏する姿はネット配信もされた。ファンが書き込むコメントには「(岩橋の)ベースがウクレレのように見えます」とあった。

ライブは約90分で終了。1曲1曲の演奏を終えるたび、岩橋は「ありがとう!」と感謝の声をあげた。彼自身、最後まで楽しそうだった。気心の知れたメンバーと好きな音楽に浸れる喜び。ファン目線でも温かさを感じられるライブだった。ただ、彼の漫才をもう見られない寂しさが、まだ記者の中に残っている。【三宅敏】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミヘキタヘ」)