ブロードウェー発、米で映画化もされたミュージカル「NINE」は今日12日、東京・TBS赤坂ACTシアターで初日を迎える。29日まで。城田優ふんする主人公の妻を元雪組トップ娘役、咲妃みゆが演じる。咲妃は、コロナ禍で仕切り直しとなった今作開幕を心待ちにし、自粛中は体幹を鍛え演劇法も学んだ。備えて迎えた“今”の思いを聞いた。大阪・梅田芸術劇場は12月5~13日。

   ◇   ◇   ◇

最初に観劇したのは、下級生だった月組時代。ソロナンバーの参考にしようと、繰り返し見た。

咲妃 あの有名な…大好きな作品、信じられなかった。以前より登場人物の心情が理解できるようになりました。困った男性だなと思うんですけど、皆が彼に魅了されていく。

主人公グイドは不振に陥った映画監督。彼の再生を描き、グイドに寄り添う女性たちとの物語でもある。

咲妃 劇中さまざまな女性が登場しますが、妻ルイザの根底には「彼の一番のファン」というのがある。

城田の舞台は「ロミオとジュリエット」「エリザベート」など、劇団時代から何度も観劇してきた。

咲妃 舞台上で演じている役にうそがない。労力のいる作業にしっかりと向き合い、情熱を注ぐ役者さん。でも実際に会うと、とても気さく。発する言葉に優しさがあり、向上心を持ち続けられる方。いつかご一緒したいと思っていた。

5月以降の出演舞台が中止に。不安も膨らんだ。

咲妃 お稽古の真っ最中(に中止)。覚悟はしていても、とてつもない喪失感に襲われました。もちろん、つらいのは自分だけじゃない。分かってはいても、人と会えず、孤独を感じずにはいられない時期も。

舞台から離れ「衰える」恐怖も。オンラインで体幹を鍛え演劇法を学んだ。

咲妃 「ジャイロトニック」という体幹トレーニングのオンラインを頻繁に受け、演劇、演技も一から学び直しました。ひとつの物語を皆で読み解く戯曲解釈など、だいたい3カ月ぐらいかけたかな? 物語全体をとらえることが大切。物語、役への愛情も、理解も深まっていくと学びました。

古巣の劇団も戦後初の長期中止に見舞われた。

咲妃 とても、心が痛かった。切磋琢磨(せっさたくま)してらっしゃる姿が手に取るように分かるだけに、自分のこと以上に…。

同期や仲間もまだ現役に多く、連絡もとった。

咲妃 励ましの言葉を送り、いただき…。でもまあ! 皆さん、見事に自粛してらっしゃり、感染予防に努めて。劇団のすばらしさだと思う一方で、皆さんの精神が心配にもなりました。歌劇団は、美しさも魅力のひとつではありますが、卒業してなお感じるのは、生身の人間が作り上げている世界。皆さんの心が心配で心配でたまらなかった。

宝塚で学んだことは、今も生きる。

咲妃 実は、卒業後すぐは「しっかり巣立たないと」って思いがあって。卒業して3年が経過し、そうではないと気づきました。歌劇団出身者であることを誇りに思い、「さすが宝塚歌劇団出身の方ね」と言ってもらうのが、うれしい言葉に変わりました。

10年入団。芸歴は丸10年になる。退団後はドラマ、歌にも挑戦してきた。

咲妃 まだまだ! 何も変わっていない。相変わらず、もがいて、もがいて。でも、少しでも成長できたかなと思う点をあえてあげるとするならば、完璧を求めすぎないことが大切だ-と、気づけるように。

思考に柔軟性も出た。

咲妃 ここまで1日たりとも欠けては今の自分が成り立たない。よくぞ、ひとつのお仕事を続けられたなって。ほんの少しほめてあげたいなと思います。

コロナ禍で、女優としての目標にも影響が出た。

咲妃 以前の私だったら、すごく熱く語ってたと思う。でも(仕事の継続に)なんの疑いもなかった日々を、突然、奪われてしまった。「こうありたい」とか、夢を抱いていいのかな? と考えてしまって…。願えば願うほど「そうなれなかったら?」って思う意識も出てきたり…。

今作の稽古も、内にある不安との闘いだった。

咲妃 「あんな咲妃」「こんな咲妃」を見てみたいと、おもしろがっていただけるような俳優でいたい。それは、変わらない。英語力を鍛えようとアプリを使用して、AIを相手に英会話を勉強する時間を設けました。世の中にはおもしろい映画、ドラマがあふれていることも知りました。

息抜きも大事だと知る。

咲妃 まんまと「鬼滅の刃」にはまりました(笑い)。アニメはスタジオジブリ、ディズニー作品以外はあまり拝見しなかったのですが、興味本位で見てみたら、おもしろい! 吸収力も磨かれ、女優としての感性も鋭さを増している。【村上久美子】

◆ミュージカル「NINE」 1982年の初演時にトニー賞で複数受賞したブロードウェー発ミュージカル。09年には映画化もされた大作の日本上演が決まった。斬新な仕掛けが注目される藤田俊太郎氏が演出。映画監督グイド(城田優)は新作撮影が迫るも、構想が浮かばず苦悩。その最中、妻ルイザ(咲妃みゆ)から離婚を切り出され、関係修復とスランプ克服のためルイザとともにベネチアへ。そこへマスコミ、愛人も押し寄せ妻との関係改善も望めないまま騒動は続く。

☆咲妃(さきひ)みゆ 3月16日、宮崎県生まれ。10年入団。月組配属。12年「ロミオとジュリエット」で新人公演初ヒロイン。14年1月に雪組。同9月にトップ娘役就任。「ローマの休日」アン王女などを演じ、17年「幕末太陽傳」で7月に退団。コンサート、ミュージカルなど舞台を中心にテレビドラマにも出演。9月には2枚目アルバム「MuuSee」発売。映画「窮鼠はチーズの夢を見る」にも出演。身長160センチ。愛称「ゆうみ」。