今回は他国の文化について少し触れていこうと思う。

 7月10日から14日までスペイン・セビリアで開催された「国際スポーツ心理学会」に参加してきた。通称ISSP(International Society of Sports Psychology)。今までは、代表の合宿などでは、世界中回っていたが、研究の成果を発表するというアカデミックな世界はとても刺激的だった。様々な国の研究者たちが集い、意見交換する様は実に興味深い。様々な心理の領域で、自分の研究の概念とどこが共通するのか、今後の研究の展望にもなり最高な時間だった。しかもスポーツ心理学会ということで、トップアスリートだった教授も多い。セカンドキャリアへの知見にもつながった。

スペイン・セビリアで開催された国際スポーツ心理学会で
スペイン・セビリアで開催された国際スポーツ心理学会で

 今回の学会は、何度も訪れたことがあるスペインだったが、アスリートとしてではなく渡ったスペインはとても魅力的で、あらためて文化の違いに感動した。まず、街の人たちは目が合えば誰にでも挨拶する。下を向いて早足で歩いている人がほとんどいない。こんなことが頭に浮かんだ。東京は世界中の人が知る大都市で、満員電車やスクランブル交差点がすぐにイメージできる。こんなにたくさんの人がいるが、どれだけの人と挨拶してきただろうかと。

 「オラ!」

 簡単だし、スペイン語が話せなくてもすぐ覚えられる挨拶。一番短い挨拶ではないか。「こんにちは」と意味があるこの挨拶で、見知らぬ人も一気に打ち解ける。スペインの人に触れていると、ブラジルで行われた昨年のリオデジャネイロ五輪・パラリンピック大会に行った時のことを思い出す。行く前は治安が悪いなど評判は様々だったが、私は市民の笑顔に癒された。ボランティアの方たちの明るさと、笑顔が最高のおもてなしだと感じた。

 スペインは、情熱の街という代名詞があることも有名だ。人々は真夏の突き刺すような日差しを浴び、小麦色の肌がさらに輝いていた。

 「なんて素晴らしい街なのだろう」

 そう感じずには、いられなかった。街には多くの教会が点在し、その建造物はどれも芸術的だ。歴史とうまく共存しているというイメージ。昔から大切にしているものと、変化していく現代。時代の流れに逆らうということではなく、融合しているという印象を受けた。

スペイン・セビリアの街並み
スペイン・セビリアの街並み

 そんな中で、注目すべき独特な文化と言えば「シエスタ」だろう。だいたい午後1時から4時にかけて休業する。食事をしたあとに、ゆっくり休むのだ。睡眠をとってもいいし、睡眠をしなくてもいい。元々歴史をさかのぼると、農業の合間に厚い日差しを避けるためにシエスタ文化が発達したといわれている。しかし、スペインはEU統合を受けてから、スペイン特有の文化であるシエスタの慣習を廃止する傾向がある。例えば、2006年からスペインの公務員は、シエスタ制度が廃止されている。民間で働く人々にはまだ多く残っているが、バルセロナではなくなってきている企業も多いという。いずれ本当になくなってしまうかもしれない。

 日本人のビジネスマンにとっては、「昼寝なんて」と思うかもしれない。

 しかし、行ってみて分かったのだが、本当に日差しが強い。相手の文化を知り、相手を理解する。スポーツではとても大切なこと。

 スペインの文化に触れてみて、もっと自由に思考をちりばめていく。そして、結果としてハイブリッドな仕組みになっていけるのではと感じた。グローバル化、ダイバーシティ(多様性)。色んなワードが飛び交う現代だが、歴史を知り、先人から学ぶことも多いに違いない。2020年東京五輪・パラリンピックに向けて、ハード面でもソフト面でもレガシーを多く残せるように。

(伊藤華英=北京、ロンドン五輪競泳代表)

国際スポーツ心理学会で参加者と仲良く記念撮影
国際スポーツ心理学会で参加者と仲良く記念撮影