今月18日から東京で開催される予定だった飛び込みワールドカップ(W杯)。コロナ禍の影響で延期になり、5月1日からの開催に変更になった。状況が状況なだけに、中止という選択肢もあったと思う。それでも、何とか開催へとつなげてくれた関係者の方々には、本当に感謝の気持ちでいっぱいだ。

特に今回は、東京オリンピックをかけた最後の舞台。私の経験からも、選手たちは試合を終えるまで、いつもとは比べものにならないほどのプレッシャーや緊張が続く。精神的にも肉体的にも、かなり追い込まれた状態になっていることを考えると、試合日程が変わってしまう事はかなりのストレスだと思う。

しかし、ここが踏ん張りどころ。みんな条件は同じだと腹をくくって、何とか最後まで走り抜けてほしい。

そこで今回は、オリンピック最終選考会であるW杯に出場する選手たちをご紹介したい。


3月の選考会で演技をする西田
3月の選考会で演技をする西田

<男子3メートルシンクロ>

まずは、ベテランの寺内健(ミキハウス)と坂井丞(ミキハウス)の2人から。ご存じの方も多いと思うが、寺内選手は5度のオリンピックを経験している飛び込み界のレジェンドだ。東京オリンピックでは、すでに3メートル個人とシンクロの両種目での出場が決まっている。しかし、今回はシンクロのみに出場する。シンクロのパートナーである坂井も、前回のオリンピックを経験している実力者。ベテラン2人の息の合った演技は、初めて飛び込み競技を観戦する方でも、十分にすごさを分かって頂けるだろう。


<男子3メートル板飛び込み>

残り1枠をかけ、須山晴貴(松江DC)と伊藤洸輝(日大)が世界の大舞台で日本人対決を繰り広げる。2人とも初のオリンピック出場を目指し、難易率の高い技を取り入れて挑戦する。須山の持ち味は、長身を生かしたダイナミックな演技。小柄な選手が多い日本では、その存在感を大いに発揮しているが、世界でどこまで通用するのか。一方で、伊藤は柔らかくしなやかな動きが持ち味。オリンピック出場資格は、準決勝18位以内に入ることが最低条件。そこからさらに、順位の良かった方が最後の1枠を獲得する。狭き門をくぐるのはどちらなのか。


<男子10メートル高飛び込み>

今回最も注目される種目だろう。若きホープである、玉井陸斗(JSS宝塚)と西田玲雄(近大)の2人が出場する。史上最年少でのオリンピック出場が期待されていた玉井。そんな中での延期だったが、開催が1年延びたことによって、さらに実力を高めた。演技の安定性にも磨きがかかり、W杯ではパワーアップした彼を見ることができるだろう。西田は成長期を乗り越え、体がしっかりと出来上がったタイミング。ここにきて高い難易率の技に安定性が出てきている。成長が著しい2人の活躍を、願わずにはいられない。


<男子10メートルシンクロ>

村上和基(JSS白子)、伊藤洸輝(日大)ペアが出場する。村上はオリンピック経験こそないものの、国際大会での経験が豊富なベテラン。経験の浅い伊藤を、どこまで引っ張っていけるかがカギとなるだろう。コンビを組んでからまだ日は浅いが、安定感のある演技とノースプラッシュを武器に、初のオリンピック出場を目指す。



3月の選考会で演技する榎本
3月の選考会で演技する榎本

続いて女子。

<女子10メートル高飛び込み>

W杯初出場の安田舞(日体大)と、既に東京オリンピックの出場権を獲得している荒井祭里(JSS宝塚)が出場する。若さの勢いで今回のチャンスをつかんだ安田は、挑戦者の気持ちで堂々と戦ってほしい。荒井は決して種目の難易率は高くないが、どんな状況でも安定した演技を見せてくれる。世界で活躍するためには、欠かせない精神力の持ち主だ。

荒井は、板橋美波(JSS宝塚)と組んでシンクロにも出場する。板橋は1度オリンピックを経験している分、荒井にとっては心強い存在だろう。2人は同じ所属で、長年一緒に練習している幼馴染。本番でも、息ぴったりの演技を披露してくれるに違いない。


<女子3メートル板飛び込み>

三上沙也加(日体大)に注目してほしい。2019年の世界選手権で5位という素晴らしい実績を残し、すでに東京オリンピック出場権を獲得している。大舞台を経験したからこそのプレッシャーもあるだろうが、彼女は世界でも数人しかできない大技「5154B(前宙返り2回半2回ひねり)」という武器を持っている。ぜひ、強い日本を今回も示してほしい。そしてもう1人は、最近、特に存在感を放っている榎本遼香(栃木DC)だ。国内では三上と優勝争いをするほどの実力がある。三上に続く個人の出場枠を獲得できる可能性を十分に秘めている。

榎本は、宮本葉月(近大)との3メートルシンクロにも出場する。仲のいい2人。姉妹のような関係をうまく活用し、息の合った演技を披露してくれることを期待している。


どんな状況下でも、選手の役目は試合に向けて己と戦い続けること。さまざまな意見があることは、選手たちも分かっている。それでも、前を向いて進むしかないのだ。目標や夢に向かって頑張っている選手たちの姿は、きっと胸に響くものがあると思う。スポーツの力を信じて、ぜひ温かい声援を送ってあげてほしい。(中川真依=北京、ロンドン五輪飛び込み代表)