毎週日曜日掲載の「スポーツ×プログラミング教育」。今回は元早大ラグビー部主将で、授業「タグラグビー×算数・プログラミング」を監修する株式会社STEAM Sports Laboratoryの山羽教文社長。STEAMに関わるきっかけや今後について聞きました。【聞き手=豊本亘】

「タグラグビー×算数・プログラミング」を監修するSTEAM Sports Laboratoryの山羽教文社長(右)と実技を担当する石川安彦氏(撮影・豊本亘)
「タグラグビー×算数・プログラミング」を監修するSTEAM Sports Laboratoryの山羽教文社長(右)と実技を担当する石川安彦氏(撮影・豊本亘)

18年「STEAM」設立

スポーツはフィジカルやメンタルに加えて戦略を考える思考が必要なんです。ところが、自分が野球をやっていた小、中学校の頃って、監督やコーチに言われたことをただミスなくこなしていた印象しかなくて。好きで始めたのに行くのが嫌になっていった記憶が、非常に強いのです。

神奈川・桐蔭学園高でラグビーを始めるのですが、野球とはまったく違う環境でした。選手が練習内容を主体的に考えて、目標や課題の対策も、試行錯誤しながら自分たちで見つけていきました。早稲田大のラグビー部も同じで、それが楽しかった。

そんな経験を子どもたちに伝えたいという思いで、2003年に株式会社FIELD OF DREAMSを立ち上げました。当時は、ライフスキル(1994年にWHOが学校教育課程への導入を提案。問題解決や自己認識など10項目のスキルがある)をスポーツで育む環境を作りたいと思っていました。スポーツを辞めた後も社会で生かせる力を、という思いでした。

(7人制ラグビー元日本代表選手の)石川安彦をコーチに、各地の小学校でライフスキル教育を意識したタグラグビー教室を展開してきましたが、従来の教室との違いを顕在化できませんでした。確かに教えるのはうまいけど、ライフスキルを意識するってほかと何が違うの? などの意見が当時はありました。

転機は、ジャズピアニストで数学者の中島さち子さんとの出会いでした。ジャズピアノをやりながら数学も研究し、音楽と数学をかけ合わせたワークショップもやっていると聞いて興味がわきました。楽譜の中にも数学的に説明できるパターンがあると聞いてなるほどと。「数学×スポーツ」はできないかと投げかけたのが最初です。

スポーツを他の領域からみることで、新しい発想や問題解決策が生まれる。これは、ライフスキルの「創造的思考能力」や「問題解決能力」に通ずるものです。目的は同じですが、見え方が「STEAM×スポーツ」のほうが、従来の教室との違いを訴求する効果は高いと考えました。2020年からプログラミング教育が必修化になる話もあり、一気にかじを切りました。18年には、スポーツ教育事業を主体とした株式会社STEAM Sports Laboratoryを分社化しました。

学校体育の場に普及

スポーツはもともと遊びだから楽しいし、没頭しやすいんです。没頭できれば自ずと探究心が芽生え、深い学びにつながるはずです。また、勝ち負けが短期間ではっきり出るので、結果がプロセスに対するフィードバックとなり、試行錯誤しながら高みを目指すことができます。STEAMとスポーツの親和性が高いのは当然なんです。僕の高校、大学時代がそうでしたが、楽しくやってるとき、没頭しているときが人間、1番伸びるんです。

今後は、小、中学校の学校体育に「タグラグビー×算数・プログラミング」を普及させていきたい。タグラグビーは学校体育の教材に適しています。ボールを持ったらシンプルにつかまるまで走ればいいし、守備もボールを持った相手のタグをとればいい。鬼ごっこの延長なので技術に左右されないで運動が苦手な子どもでもプレーできる。そして、自分の役割や何をやればいいのか、思考を促進させるのがプログラミング。俯瞰(ふかん)的に見ることで理解が深まり、周りの動きも含めて全体を見るようになります。

昔は空き地で野球ごっこをしている子どもたちをよく見ました。大人が介在しないので、試合が楽しくなるように自分たちでルールを決めたりしていました。このような経験は創造力やコミュニケーション力、問題解決力を高め、ルールを順守する力や協調性にも繋がります。今の子どもたちには、場所も時間もなくそのような機会がなかなかありません。だから体育の時間を使い、子どもたちが中心になって授業を展開する。そんな場所を学校で作りたいですね。

◆山羽教文(やまは・たかふみ)早大教育学部卒。95年に三井物産株式会社に入社し、00年に退社。03年にオハイオ大学大学院スポーツ経営学修士を修了。株式会社FIELD OF DREAMSを設立し代表取締役を務める。

(2020年2月16日本紙掲載)