恩師の思いを力に変える。ラグビー日本代表は17日、パシフィック・ネーションズカップ(PNC、27日開幕)に向けた宮崎合宿を打ち上げた。

実戦形式の強度の高い追い込み練習で故障者も出たが、チームテーマである「One Team」を体現して、6週間を駆け抜けた。

取材中、印象的な出来事があった。9日の練習でプロップ具智元(グ・ジウォン、24=ホンダ)が右手甲を骨折した。「全治4~6週間」との診断で、PNC出場は絶望的となった。その後の全体練習には参加出来ず、別メニューでの調整が続いた。太眉に愛くるしい笑顔の「ぐーくんスマイル」がグラウンドから消え、険しい表情で首やふくらはぎなどを黙々と鍛えた。65日後にW杯が迫り「焦っている」と本音を漏らし、必死に体と気持ちをコントロールしながら、自身と葛藤しているようだった。

そんな状況を察してか、“救世主”が現れた。具の骨折を報道で知った、大分・日本文理大付高時代の恩師、染矢勝義元監督(51)が12日、サプライズで激励に訪れた。有給休暇を取って、大分県佐伯市から車で片道約2時間かけて駆けつけた。一般客と交じりながら、ネット越しでトレーニングする教え子をじっと見つめた。練習後、「智元!!」と呼び掛けると、懐かしい声に気づいた具は「ぐーくんスマイル」で恩師に歩み寄った。がっちり握手を交わし、限られた数分間で互いの思いを精いっぱい伝えた。染矢氏は「本番はW杯」と何度も繰り返し、「休むことも大切だ。今は焦らず、しっかり治した方が良い。高校時代とは違うんだ。元気がないのは(高校時代の愛称の)デニーらしくない。あとは自分を信じて前だけを見ろ」などと優しい口調で具の気持ちを和ませた。

実は、染矢氏は激励訪問だけでなく、もう1つサプライズを準備していたが、失敗に終わった。前日夜、佐伯市内の理髪店で具と同じ髪形に散髪したが気づかれなかった。「デニーカットは似てなかったのかな(笑い)。こんなハードな練習が続いたら、俺の髪形なんて気づかないのも当然。デニーは大分の宝だし、ちょっとの時間だったけど、少しでも元気が出てくれたらそれだけで良い」。

韓国出身の具は、中学、高校時代に育った佐伯市を「第2の故郷」と言う。地元のとんこつラーメンが大好物で、染矢氏も別れ際にこう言ったほどだ。「また、ラーメン食べような」。ラグビーの文言はないが、この一言に深い師弟関係を強く感じた。ラーメンをすすりながらラグビー談議をする画が頭に浮かぶ。ラグビーと故郷を愛する24歳は、この試練を乗り越えて初の夢舞台に臨む覚悟だ。【峯岸佑樹】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)

別メニューで調整中の具智元を見守る染矢勝義氏(撮影・峯岸佑樹)
別メニューで調整中の具智元を見守る染矢勝義氏(撮影・峯岸佑樹)