【木製バットの危機】足りない、高い、コロナ、家具にスケボー…デッドラインを超えた選手の相棒

「木製バットの危機」とテーマを定め、調べてみると…野球という競技の枠に収まりきらない「今」が浮き彫りになってきました。驚き悩んで揺れながら、筆者は「腰を据えて書く」と決めました。

ストーリーズ

広重竜太郎

バットの悲鳴が静かに聞こえる。野球というスポーツ。人間に備わった「投げる」という特殊能力を磨き上げ、職人が丹精に削った木を唯一の相棒に、超人的な反射神経と鍛え抜かれた腕力で「振る」という動作と対峙(たいじ)する。その相棒たるバットの未来。激変する自然環境によるバット材の枯渇だけが問題ではない。テーマは深く、正直、連載開始にあたり、答えも見つかっていない。不定期にはなるが、深く潜っていきたい。

■干上ったアオダモ 70年かかる

かつてイチローも愛したアオダモ。独特のしなりを持つバットの良材だった。そのたわみを生かしてボールをバットに乗せて運ぶ。80年代から台頭した木材は、日本人選手の肌感覚に合っていた。

だが長年の伐採がたたる。天然アオダモの数が減った。00年代に入ると、主要産地の北海道で資源が干上がってきた。今、球界でのアオダモバットの使用率は1%もないと言われる。

アオダモの苗を植樹する長嶋茂雄氏=2003年11月

アオダモの苗を植樹する長嶋茂雄氏=2003年11月

資源育成のため、球界やバット生産者が手を取り合って植林も当時から行っている。だがバットに適した直径の木になるまで約70年の月日。あと半世紀は必要だ。目の前の現状は破れない。

廃れたアオダモも極小で残りつつ、9割がメープル。ホワイトアッシュ、イエローバーチが最後の1割の空白を埋めている状況だ。わずか4種で構成されている。現在の主力、メープルは潤沢なのか。

■90%メープルに社会問題が直撃

野球用具メーカーのSSKでバット製造を担当する商品管理事業部開発生産チームの松井尊嗣氏に聞いた。

「北米原産のメープル材があっても、他の要因のいろいろな問題を抱えています。海外から木材を運ぶコンテナ不足やウッドショックで値段が上がっています。この状況が続くとバットの単価に跳ね返えざるを得なくなります」

エンゼルス大谷が21年に使用したバーチ材のバット(下)。20年モデル(奥)はアオダモ材

エンゼルス大谷が21年に使用したバーチ材のバット(下)。20年モデル(奥)はアオダモ材

20年から続くコロナ禍。工場の稼働率が低下し、木材の生産が落ち込んだ。一方で経済活動が再開し、世界的に船荷のコンテナが不足し物流も停滞している。

いろいろな社会問題とリンクする。一方で、東京五輪でスケートボードの人気が高まった。ボードもメープル材が使われることから、野球のバット製作にも影響が出るのではと、まことしやかに言われる。

■家具の積み荷に潜り込む

新たな木材が進出しにくいのは、材質だけの問題ではない。そもそも木材の使用目的でバットは限られている。メインは住宅建材や家具だ。

プロ選手用のバット材を北米から日本に直接輸入もするが、量産向けのバット材でコストを抑えられるのは中国経由。船便として遠回りにも思えるが、中国の方が人件費が安い。

スケートボードの堀米雄斗

スケートボードの堀米雄斗

丸太をさまざまな用途に応じて加工する。フローリング用や壁用の形状にする。バット用は丸太から丸棒になる。

その工程を人件費を抑えながら行い、アジア諸国に運ぶ。その積み荷の間にバット用の丸棒が入り込む構図だ。

だから住宅建材や家具としての物流システムが成り立っているか重要な要素になる。バットは相乗りだ。家具としてのニーズがなければ、バットの材料としては安定供給できず、定着できない。

■ウルトラC 桜の木も不発

約20年前に桜の木で試作したバット工場もあったという。「桜の木は比重が重い。他の材ならバットになった時に約900グラムになる重さが950グラムにまでなる部分が多い。産業としては成り立つけど、バットとしては重すぎて定着しない。ストーリー的には日本で作った桜のバットはいいんですが…」。松井氏も泡と消えたロマンを振り返る。

ダケカンバのバットを贈呈され笑顔の日本ハム田中賢介(左)=2019年

ダケカンバのバットを贈呈され笑顔の日本ハム田中賢介(左)=2019年

19年には北海道産ダケカンバで作られた試作品バットで日本ハム田中賢介が安打を放った。少しずつ可能性は広がるが、主要4種に割って入るには、まだまだハードルが高い。

限られた資源。さらにアスリートの本能でもある「道具へのこだわり」が問題を複雑化させる。